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ガーディアン・エンジェル (ハヤカワミステリ文庫)
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V・I・ウォーショースキーシリーズの第7作で1992年の作品。日本はパブルの後遺症に苦しみ、対処を誤って長い冬の時代に入るのだが、アメリカでは冷戦の勝者として世界のアメリカ化(グローバリズム)に自信を深めていた頃です。
苦しい老後を送っている老人の死を契機に、法律事務所も関わった企業の反倫理的な会計操作、脱税、債券詐欺、横流し等の企業犯罪が暴かれていく。債権化、企業買収、企業会計操作などアメリカの資本主義が生み出す社会問題をパレッキーがどのように描き出すか興味が持てる。善悪、白黒の明確でない問題をミステリで扱うのは難しい。文学なら、個人の苦悩や社会批判(言いっぱなし)で済むのだろうが。
パレッキーは反倫理的な企業は殺人も厭わない破廉恥な経営者(及び、その取り巻き)で経営されているとする事で物語としている。だが、関わる者すべてを犯罪者とすることは出来ず、反倫理的な者たちには社会的罰を与える事にしたようだ。パレッキーはアメリカ資本主義や、それを支える者たち(経営者や弁護士)をそれ自体としては非難してはいない。
ヴィックは殺人を犯した経営幹部を逮捕し、隣人の債券詐欺被害者の投資は取り戻したが資本主義の弊害を改善したわけではない。アメリカ資本主義の問題に取り組んでいると見れば舌足らずで物足りない。
本作品で、ヴィックは、法律学校時代に結婚し、すぐに分かれた元夫と出会う。そのため若い頃のヴィックの生き様が描かれる(本作品ではヴィック39歳)。また、黒人刑事とデートを重ねる仲になる(パレッキーミステリはロマンス小説の要素は薄いのでロマンスは淡泊)。
大衆小説としては面白い。
<ストーリー>
ヴィックのアパートで、愛犬ペピーを共同で飼っている階下に住むコントレーラスは大戦を挟んで長年ダイヤモンドヘッド社で機械工として働いた年金暮らしの77歳の老人である。彼は、会合で学校時代・職場時代を共にした旧友ミッチ・クルーザーと邂逅し、アパートに連れ帰った。ミッチは呑んだくれで妻子と離別し木賃宿で暮らしていた。そのミッチが行方知れずになり、コントレーラスはヴィックに捜索を依頼する。
運河で死体が発見された。殺害されて投げ込まれたミッチだった。治安の悪い寂れた工場地帯で、警察は熱心に捜査するようには見えず、ヴィックは(時には足手まといの)コントレーラスと一緒に捜査に乗り出す。
ご近所の老婆ミセス・フリゼルが呼んでも出てこないというのでヴィックは様子見に行った。一人暮らしのフリゼルの家は庭は荒れ放題で、数匹の犬はうるさいと、お向いのヤッピー、タッド、クリシー夫婦は目の敵にしていた。ヴィックが7百ドルで購入した最新の解錠ツールでドアを開け、散らかり放題の家のなかを探すとフリゼルはバスで倒れており意識不明だった。弁護士のタッドは、母親に無関心のフリゼルの息子と話して後見人となり、早速保健所に連絡、フリゼルの犬を始末し、ヴィックを怒らせた。タッドはヴィックの別れた夫リチャード(ディック)・ヤーボロウがパートナーの大手弁護士事務所クローフォード・ミードに勤めていた。ディックとは法科大学時代の同級生で、その時代に結婚したもののすぐに分かれた。別れて間もなく、野心家のデックはシカゴの大手企業アマルガメイテッド運輸オーナーのピーター・フェリッティの娘テリーと結婚した。
老婆フリゼルが隣家のマージョリー・エルストームに預けていた箱から、ヴィックはダイヤモンドヘッド社の社債と不動産の権利証書を発見する。社債は、ヴィックと同じアパートに住む大手金融機関USメットのマネージャー、ヴェニーとクリシーが近所の老人たちに「金利の安い預金より債権がお得」と推薦したもので、フリゼルは地元のレイク・ビュー銀行の口座を解約してUSメットで債権を購入していた。ジャンク債で、今では2割程度の価値しかなかった。ヴィックはトッドに奪われないように隠しておいた。
ミッチが、木賃宿仲間に旧職場がらみで金蔓を掴んだと語っていたと聞き込んだビックはダイヤモンドヘッド社に行くが工場長ミルト・シャムファーズに追い返される。
怪しいと睨んだヴィックは深夜、工場に忍び込み金属ロールを大型トラックに積み込んでいる現場を目撃する。だが、従業員に見つかり、銃撃されて運河に飛び込み、意識不明となったものの助けられる。護衛・介抱してくれた黒人刑事コンラッド・ローリングスと親密になり、以降デートを重ねる仲となった。
ダイヤモンドヘッド社の企業情報を調べた。以前は大手鉄鋼会社パラゴンスティールの子会社で、会長はピーターの弟ジェイソン・フェリッティでピーターや元夫ディックも役員に名を連ねていた。
狙われたヴィックは尾行を避けるため愛車トランザムを親友の医師ロティの車としばらく交換してもらう事にしたが、トランザムを運転していたロティはヴィックと間違われて襲撃され重傷を負い、ロティとヴィックの間に深い溝を残すことになった。襲撃に使われた車はエディ・ムーア名で登録されており盗難届が出ていた。
ミッチの残した書類からエディ・ムーアの写真を発見した。彼はダイヤモンドヘッド社の元組合長で、元組合員のコントレーラスと事情を聞きに行くと彼は殺されていた。コントレーラスからの電話でヴィックが来ると知り、慌てて会社に知らせたため始末されたのだった。エディは資金繰りに苦しむ会社のため年金基金の流用を許し見返りを得ていた。
ヴィックは路上で工場長ミントの手下達から拉致され工場に連れ込まれる。工場にはピーター、ジェイソン兄弟、ミントが待っておりヴィックを始末する計画だった。間一髪で部屋の明かりを消して抜け出し、車で逃走。手下サイモンがトレーラーで追ってきたが大事故を起こし、サイモンは無残な死に方をした。ヴィックは事故に巻き込まれたが助かった。
会社はヴィックの無断侵入を主張し、ディックも義父の弁護に駆け付けた。事故係の警官が、ヴィックを逃走犯のように扱い始めたところにコンラッド刑事が到着した。ヴィックの言い分の拉致監禁が認められ、拉致に使われた車の指紋調査を行う事になり形勢は逆転した。
ヴィックはヴェニーやトッド、クリシーを脅し、フリゼルの債権の元金を返させたが、彼らの行為は法で禁止されてはおらず、罪の意識もなかった。トッドは引越して行った。法律事務所は首になったという。
ディックはピーターの会社の弁護はせず、法律事務所はやめるとヴィックに告げた。長い裁判が待っている。