「サマータイム・ブルース」に続く第2弾。

 

 シカゴの東に広がるミシガン湖など、五大湖が舞台である。この作品を面白く読もうと思うなら五大湖海運事情の理解が欠かせない。五大湖は工業製品や原料、穀物の大動脈なんですね。多分、瀬戸内海や日本海は及びもつかないほど。五大湖は冬季は凍るため使えない、スペリオル湖とヒューロン湖の間の閘門はパナマ運河のように1本だけでなく大小船舶に合わせ何本もある、五大湖から大西洋に出る航路(カナダ側)もあるが鉄道と連結してボルチモアに繋がっている、などなど本作品で勉強させていただきました。パレッキーが実地に体験したという貨物船での航海の描写はかなり楽しめる。

 

 本作では五大湖海運のお仕事、人間模様が描かれる。登場人物は多いがキャラはそれなりに分かりやすい。ただ、犯人の老舗海運会社当主ニールズは複雑な人間性を持つ人物として描こうとしたのだろうが無理がある。いくら育ちの良い人望のある紳士で海軍士官として認められていた人物であっても、金で若い金髪美人を意のままにし、金のために策略を巡らして殺人を重ねる者に救いなどないのではなかろうか。

 ヴィックは事件を闇に葬ったが唐突で必然性が感じられない。

 

 パレッキーのリサーチは定評があるが、その片鱗を見せた初期の作品である。

 

<ストーリー>

 ヴィックはサウスシカゴで育った子供のころ、従弟のブーム・ブームと兄妹のように過ごしてきた。ホッケーに夢中だったブーム・ブームはシカゴのホッケーチーム「ホークス」のスター選手となったがハンググライダー事故で骨折し引退、ユードラ穀物会社に、その会長マーガスの後援で就職していた。

 

 そのブーム・ブームが突然死んだ。ヴィックは遺言執行人に指定されていた。桟橋から落ちて貨物船バーサ・クループニク号のプロペラに巻き込まれたのだった。警察は事故だとしたが、自殺の噂もあった。数カ月ブーム・ブームと連絡していなかったヴィックだったが、留守番電話に「相談したい事がある」というメッセイジが残されていた。

 

 納得できないヴィックは事情を探り始め、ブーム・ブームは社内の評判も良く、腰かけではなく熱心に仕事をしていたが、上司のクレイトン・フィリップスと衝突し、事故当日もクレイトンと桟橋で一緒で、遺体の発見者もクレイトンだったと知る。

 

 目撃者を探そうとバーサ・クループニク号(グレイフォーク汽船所属)や、その後ろに停泊していたルーセラ・ウィーザー号(ポールスター海運所属)に接触しようとして五大湖海運の老舗グレイフォーク汽船オーナーのニールズ・グレイフォークや新興海運会社ポールスターの社長マーティン・ブラドリーと出会い、彼等の激しい確執に気付く。

 

 ブーム・ブームのマンションに遺言執行のために出向くと、ブーム・ブームの恋人だというペイジ・キャリントンが部屋に残した品を探しているのに出会う。数日後マンションは荒らされ、老警備員のヘンリー・ケルヴィンが殺された。

 

 マーティンと食事をし、港の駐車場を出たヴィックは愛車マーキュリー・リンクのブレーキパイプが壊されており、事故に遭遇、重傷を負う。警察は窃盗犯の居直り、いたずらと見たがヴィックはブーム・ブームが持っている証拠品を探そうとしている者がおり、調査を妨害しようとしていると確信する。

 

 回復もそこそこにヴィックはポールスター海運の事件関係者が乗っている大型船ルーセラ・ウィーザー号を追ってスペリオル湖の積出港サーダーベイに飛び、船に乗り込みマーティン達に話を聞くが確証は掴めずシカゴに戻る事にする。下船しようとしたスー・セントメリーの大型船専用ポウ閘門でルーセラ・ウィーザー号は爆破され、数人の船員が犠牲となった。スー・セントメリーの大型船通行は当分不可能となった。

 

 ヴィックはブーム・ブームの遺品のなかからコードラ穀物会社の送り状を発見し、他の書類と照合して、クレイトンの不正を知り告発しようとしていた事を突き止める。

 クレイトンは高級住宅地に住む大富豪ニールズ・グレイフォークの親しい隣人で妻ジャンニーヌと共に支社長の給与では考えられない生活をしていた。

 

 クレイトンが死体となっては荷積み中の貨物船の倉庫から死体で発見された。

 

 エイジャックス保険会社で、ロンドンから来た五大湖海運の第一人者ロジャー・フェラントと知り合い業界事情を教えてもらう。最大手グレイフォーク汽船は景気低迷と、船舶数は多いが中小型船だけのために高コストで赤字続きだと分かった。古い家柄で大富豪であり名士のニールズの犯罪を疑う者は誰もいなかったが、ヴィックはクレイトンと共謀してユードラからの不法な受注をし、ポウ閘門爆破で数年とはいえ大型船が使えなくなるので中小型船の競争力回復を企んだのではないかと考えた。

 

 ニールズの犯行なら、クレイトンの殺害現場はニールズの大型ヨットしかないと係留地の五大湖海軍訓練施設に行き、忍び込んで証拠を探し始める。

 だが、そこにニールズが部下で犯行実行者のサンデーと共に現れ、ヴィックを殺そうとする。ヴィックは逃げ回って暗い海に飛び込み、ニールズはライフルを構えながらフラッシュライトで探す。その時、乱闘後のたヨットの台所から火が出て燃え広がった。船尾のロープに必死につかまっていたヴィックをフラッシュライトが捉えライフルが狙った。

 

 だが、元海軍士官ニールズはゆっくりと敬礼し船室に戻るのだった。大型ヨットはミシガン湖底に消えた。

 

 貴婦人というにふさわしいニールズの妻クレアに呼ばれたヴィックは、彼女は全てを知る権利があると考え語り終える。クレアはヴィックを受け入れるが、ヴィックは「証拠はなにもありません」として事件の捜査は闇に葬るのだった。