「社会保険料の会社負担が増えるなら、
パートさんは全員、週19時間までにすればよいのでは?」
経営者からそう言われたら、人事担当者は何を考えるでしょうか。
働く側からすれば、気になる話です。
「今より勤務時間を減らされるの?」
「もう少し収入を増やしたかったのに」
一方で、「短時間のまま働けるなら、その方が助かる」
と感じる人もいるでしょう。
前回の第6回では、パートさんとの面談で、会社が何を確認したいのかを取り上げました。
働ける曜日や時間、収入の希望、無理なく続けられる条件は、人によって違います。
では、その違いをいったん脇に置き、会社が「全員を週19時間にそろえる」と考えたらどうなるのでしょうか。
社会保険料の会社負担を抑えられるケースはあります。
ただし、それだけで会社全体の負担が減るとは限りません。
今回は、会社が週19時間という働き方を選びたくなる理由と、その計算だけでは見えない事情を、働く側の視点も交えて考えます。
初めてこの連載を読む方にも分かるよう、具体例を使って説明します。
これまでの記事へのリンクは、記事の最後に掲載しています。
※登場する職場や会話、金額は、考え方を説明するための仮の例です。
実際の人員配置や費用は、会社によって異なります。
なぜ、会社は「週19時間」を考えるのか
会社がパートさんを雇うとき、負担するのは給与だけではありません。
健康保険や厚生年金保険の加入対象になれば、会社にも保険料の負担が生じます。
経営者が毎月の支出を確認する中で、この費用に目を向けるのは自然なことです。
短時間労働者の社会保険加入では、「週の所定労働時間が20時間以上」であることが、判断条件の一つになります。
そこで出てくるのが、
「20時間未満にすれば、負担を抑えられるのではないか」
という考え方です。
ただし、19時間という数字そのものに、特別な制度があるわけではありません。
「20時間未満」の勤務例として、19時間が使われているのです。
また、加入の判断には勤務先の適用状況や、通常の労働者の所定労働時間・日数の4分の3以上かどうかなども関わります。
週19時間なら誰でも必ず加入対象外になる、という意味ではありません。
(参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」)
会社から「週19時間まででお願いします」と言われたときは、まず、自分の能力や評価の話なのか、会社が設定している勤務条件の話なのかを分けて考えるとよいでしょう。
その時間設定には、保険料や人件費の予算が関係している場合もあります。
経営者は「支出」を見て、人事担当者は「その後の職場」も見る
仮に、経営者から次のような相談があったとします。
「社会保険料の負担を抑えたい。これからは全員、週19時間以内にできないだろうか」
人事担当者は、保険料の計算だけで答えを出すわけにはいきません。
勤務時間を減らしても、注文の件数や来店するお客さんが、同じ割合で減るとは限らないからです。
午後の電話対応は誰がするのか。
閉店前の片づけは間に合うのか。
新しい人を採用するなら、応募は集まるのか。
今いる人は、その収入で働き続けたいと思うのか。
人事担当者が考えるのは、こうした「時間を減らした後」のことです。
会社の中でも、経営者と現場責任者と人事担当者が、最初から同じ考えとは限りません。
経営者が支出を抑えたいと考える一方で、現場責任者は「これ以上、人がいない時間を増やせない」と困っているかもしれません。
人事担当者は、その間で成り立つ案を探すことになります。
働く側に届く「勤務時間を見直したい」という一言の前に、会社の中でも、こうした調整があるのです。
4人を週19時間にすると、毎週24時間分の仕事が残る
数字で考えてみましょう。
ある職場では、4人のパートさんが、それぞれ週25時間働いているとします。
一週間の合計は、
25時間 × 4人=100時間
です。
仕事の量や進め方を変えずに、4人全員を週19時間にしたらどうなるでしょうか。
19時間 × 4人=76時間
差は、毎週24時間です。
会社が4人分の勤務時間を減らしても、これまで100時間かけていた仕事が、
自動的に76時間で終わるようになるわけではありません。
その24時間を埋める方法としては、追加採用、ほかの従業員への仕事の振り分け、業務の見直しなどが考えられます。
ところが、一人だけ新しく採用しても、その人を週19時間までにするなら、合計は95時間です。まだ5時間足りません。
全員を同じ週19時間にそろえ、6人にすると114時間になります。
もちろん、時間の合計だけで必要な配置が決まるわけではありません。
それでも、「全員を同じ時間にそろえる」ことと、「必要な仕事に合った配置にする」ことは、別の話だと分かります。
「それなら、5時間だけ来てくれる人を探せばよい」
そう考えることもできます。
ただ、その5時間が会社の必要とする曜日や時間帯に合い、仕事を覚えて続けてくれる人が見つかるかは、また別の問題です。
紙の上では埋められる時間でも、実際の採用では、簡単に埋まらないことがあります。
「人を増やせばよい」には、採用と教育がついてくる
第2回でも触れましたが、新しい人を採用すると、求人広告の費用だけでなく、
応募への対応や面接、仕事を教える時間が必要になります。
たとえば、会社が追加採用のために広告を出しても、すぐに応募が来るとは限りません。
応募が来ても、希望する時間帯が合わないことがあります。
採用が決まってから、実際に出勤してもらえるまで期間が空くこともあるでしょう。
その間、足りない仕事は、今いる人たちが支えることになります。
ようやく入社した後も、すぐに一人で任せられるとは限りません。
教える側のパートさんからすると、
「自分の勤務時間は短くなったのに、その時間の中で新人さんへの説明もするの?」
と感じる場面も考えられます。
ここで大切なのは、新人を迎えること自体が問題なのではない、ということです。
会社が勤務時間を減らす計画の中に、採用後の教育まで含めているかが問われます。
教育に使う時間を確保せず、以前と同じ仕事量も求めれば、現場には無理が出ます。
人事担当者が「今いる人に少し長く働いてもらえないか」と考える背景には、こうした採用から教育までの負担を減らしたい気持ちもあります。
時給が同じでも、勤務時間が減れば収入は変わる
働く側にとって、見逃せないのが収入です。
たとえば、時給1,500円で、週25時間働いている人がいるとします。
一年を52週として単純に月平均へ換算すると、給与は次のようになります。
週25時間の場合
1,500円 × 25時間 × 52週 ÷ 12か月
=月平均162,500円
週19時間の場合
1,500円 × 19時間 × 52週 ÷ 12か月
=月平均123,500円
差は、月平均39,000円です。
これは税金や社会保険料を差し引く前の給与の比較であり、手取りの差ではありません。
実際の月額は勤務日数などでも変わります。
それでも、週6時間の違いが、暮らしの中では小さくないことが分かります。
会社は「一人につき週6時間減らすだけ」と考えていても、本人は「毎月の支払いをどうしよう」と考えているかもしれません。
一方、時間を減らすことで生活との両立がしやすくなり、その収入で納得できる人もいるでしょう。
同じ変更でも、受け止め方は違います。
会社にとっての人件費は、働く人にとっては生活を支える収入です。
人事担当者が面談で希望収入や勤務時間を確認するのは、この違いを知らないまま話を進めないためでもあります。
会社が見落としやすいのは、「このまま働き続けたいか」
収入が希望に届かなくなった人は、どうするでしょうか。
別の仕事を掛け持ちする人もいれば、勤務時間を確保できる職場への転職を考える人もいるかもしれません。
たとえば、仕事をよく知っているBさんが、会社にこう伝えたとします。
「この職場は好きなのですが、週19時間では希望する収入に届きません。
もう少し長く働ける仕事も探そうと思っています」
会社からすれば、これは困る話です。
Bさんは、商品の場所も、忙しい時間帯の動き方も知っています。
新人さんが困ったときには、質問にも答えてくれます。
そのBさんが退職すれば、会社は採用と教育をやり直すことになります。
保険料や給与の支出を抑えたつもりが、別の費用と時間を必要とする可能性があるのです。
ただし、「会社が困るのだから、希望に合わなくても残るべき」ということではありません。
働く人が、自分の生活に合う職場を選ぶのは自然なことです。
人事担当者が考えたいのは、時間を減らした後も、その人が納得して働き続けられるかという点です。
保険料の計算表には、「この条件なら、別の職場を探そうと思う」という本人の気持ちは出てきません。
でも、実際の人員配置には、大きく関わります。
もう一つの仕事を始めると、以前と同じようには頼めなくなる
掛け持ちを選んだ場合にも、職場の状況は変わることがあります。
以前は、急に人が足りなくなったときに、Bさんへ追加勤務を相談できていたとします。
しかし、勤務時間を減らした分、Bさんが別の仕事を始めれば、その時間はもう空いていません。
「今週だけ、木曜日も来てもらえませんか?」
「すみません。その日は、もう一つの仕事が入っています」
これは、Bさんの協力する気持ちがなくなったという話ではありません。
会社が用意する勤務時間に合わせて、自分の収入と予定を組み直した結果です。
人事担当者にとっては、ここも考えておきたいところです。
全員の勤務時間を短くした後も、「困ったときは、今までと同じ人に頼める」とは限りません。
普段は短時間に抑えながら、忙しいときだけ自由に追加勤務を頼める。
そうした前提では、配置が成り立たない場合があります。
働く側も、追加勤務に対応できる範囲が変わったら、早めに伝えておくと行き違いを減らせます。
「短い時間で、今までどおり」が一番苦しくなることもある
勤務時間を減らしたのに、担当する仕事が変わらない。
追加採用も決まらない。
それでも、「時間までに終わらせてください」と言われる。
こうなると、数字の上では人件費が減っていても、現場では別の負担が増えます。
急いで進めることで確認が足りなくなる。
引き継ぎが短くなり、次の人が状況をつかみにくくなる。
間違いを直すために、結局、別の人の時間が必要になる。
短時間勤務にするなら、仕事の分け方も見直す必要があります。
たとえば、午後1時に退勤する人が担当するのはどこまでか。
その後に届いた依頼は誰が受けるのか。途中の作業は、どのように引き継ぐのか。
ここが決まっていなければ、本人は「帰ってよいのかな」と迷います。
面談で勤務時間を減らす提案を受けたら、時間や収入だけでなく、次のように聞いてみてもよいでしょう。
「今担当している仕事のうち、どこまでを私が行う予定ですか?」
「時間内に終わらない場合は、誰に引き継げばよいですか?」
これは、仕事をしたくないという意味ではありません。
決められた時間の中で、何を任されているのかを確かめるための質問です。
「契約は19時間、実際は毎週それ以上」なら、確認が必要
もう一つ、知っておきたいことがあります。
会社が契約書に「週19時間」と書けば、それだけで社会保険の加入対象外になるとは限りません。
厚生労働省は、所定労働時間が週20時間未満でも、実際の労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、その後も続くと見込まれる場合には、3か月目から加入対象になると説明しています。
勤務先などのほかの適用条件も含めて判断します。(参考:厚生労働省「社会保険適用拡大 Q&A」)
一度だけ勤務が延びた場合と、継続して長く働いている場合を、同じには扱えないということです。
「契約は週19時間なのに、毎週のように追加勤務を頼まれる」
そんな状況なら、会社に実際の勤務時間と加入の扱いを確認してもらいましょう。
働く時間を正しく記録することも大切です。
会社にとっても、必要な仕事が常に19時間を超えるのであれば、その勤務枠の作り方を見直す必要があります。
書類上の時間だけを短くしても、職場で必要とされている時間まで短くなるわけではありません。
それでも、短時間勤務が合う職場はある
ここまで読むと、「週19時間の働き方はよくないのか」と感じるかもしれません。
そうではありません。
短時間勤務を希望する人にとって、働ける時間に合った仕事があることは大切です。
会社にとっても、特定の時間帯に仕事が集中するなら、短時間の配置が合う場合があります。
たとえば、昼の時間帯だけ忙しくなる職場で、その時間に働きたい人が集まっているとします。
仕事の範囲が明確で、引き継ぎもしやすい。本人も勤務時間と収入に納得している。
こうした職場なら、短時間の人を組み合わせる方法が成り立つ可能性があります。
反対に、一日を通して対応する必要がある仕事や、途中で担当者が変わると手間が増える仕事では、長めの勤務が合うこともあります。
また、人数が多ければ、休んだ人の仕事を分担しやすくなる場合もあります。
ただし、代わりに働ける時間や、担当できる仕事が共有されていることが必要です。
短時間か長時間かだけで、よい働き方と悪い働き方が決まるわけではありません。
問題は、その仕事と本人の希望に合っているかを確かめず、全員を同じ時間にそろえてしまうことです。
人事担当者の本音は、「払いたくない」だけでは説明できない
社会保険料の負担を抑えたい。それは、会社の考えることの一つでしょう。
でも、人事担当者は、その一方で次のようなことも考えます。
「せっかく仕事を覚えてくれた人に、辞めてほしくない」
「求人を繰り返すより、今いる人が続けられる条件を考えたい」
「午後を任せられる人がいれば、社員の負担を減らせる」
「短時間を希望する人にも、無理なく力を発揮してもらいたい」
もちろん、どの会社も十分に話し合ってくれるとは限りません。
予算が厳しく、希望する勤務時間を用意できない場合もあります。
それでも、「会社は保険料を払いたくないだけ」と捉えると、相談できる可能性まで見えにくくなってしまいます。
一人ひとりの希望を知った結果、短時間で働く人と、社会保険に加入して長く働く人を組み合わせる案が出てくることもあるでしょう。
全員を同じ時間にする方が、最初の説明は簡単かもしれません。
しかし、実際の職場では、違う働き方を組み合わせた方が続けやすい場合もあります。
「週19時間に変更したい」と言われたら、何を聞けばよい?
すでに働いている方が勤務時間の短縮を提案されたら、まず、今の契約と、会社が変更したい内容を確認しましょう。
労働条件の変更は、労働者と使用者の合意で行うことが原則です。
「会社の方針が決まった」という説明だけで、その場ですぐに返事をする必要はありません。(参考:厚生労働省「労働契約」)
確認したいのは、次のようなことです。
-
いつから、何曜日の勤務を、どのくらい減らすのか
-
給与や社会保険の扱いは、どう変わるのか
-
担当する仕事や、引き継ぎ先はどうなるのか
-
一時的な変更なのか、今後も続く条件なのか
-
自分の希望に近づける別の案はあるのか
たとえば、こう伝えることができます。
「週19時間になると、希望する収入に届かなくなります。
社会保険に加入して、今の時間を続ける働き方は相談できますか?」
短時間を希望する方なら、
「週19時間の勤務は希望に合っています。
ただ、出勤日数が増えると通勤の負担があるので、曜日の組み方も相談したいです」
という伝え方もあるでしょう。
これから応募する方は、求人票の「週19時間以内」という条件を見たときに、実際のシフト例や、将来、勤務時間を増やす相談ができるかを確認しておくと、入社後の行き違いを減らせます。
大切なのは、短時間という言葉だけで判断せず、自分の生活に合う具体的な働き方になっているかを見ることです。
会社にとっての「得」は、保険料だけでは決まらない
全員を週19時間にすれば、会社は得なのでしょうか。
答えを出すには、減る費用と、その後に必要になる費用や仕事の調整を、一緒に考える必要があります。
社会保険料の会社負担が減っても、追加採用や教育が必要になるかもしれません。
勤務時間を減らしたことで、経験のある人が別の職場を選ぶかもしれません。
足りない仕事を社員が引き受け、残業が増えることも考えられます。
一方で、仕事の時間帯と本人の希望が合い、短時間の配置で無理なく回る職場もあります。
採用時にかかる費用と、毎月続く保険料では、発生する時期も違います。
「採用費がかかるから長時間勤務の方が必ず安い」とも言い切れません。
会社にとって大切なのは、費用を抑えた後も、必要な仕事ができて、働く人が続けられるかということです。
働く側も、「会社が得をするか」だけに合わせて、自分の希望を小さくする必要はありません。
どのくらいの収入が必要か。何曜日なら働けるか。どのような仕事なら続けられるか。
その希望が分かって初めて、会社も、実際に続けられる配置を考えられます。
週19時間は、働き方の選択肢の一つです。
その数字だけで、会社にも働く人にも合う答えが決まるわけではないのです。
次回・最終回は、「働く時間の合計」から考えます
今回の例では、4人の勤務を週25時間から週19時間にすると、職場全体で毎週24時間が足りなくなりました。
「4人いる」という人数は変わっていなくても、仕事を担える時間は変わります。
反対に、人数が増えても、必要な曜日や時間帯に人がいなければ、現場は困ったままです。
最終回となる第8回は、【人事担当から見た⑧】人数だけでなく「働く時間の合計」で考える。
これまでの話をつなげながら、会社が必要とする時間と、一人ひとりが働ける時間を、どう組み合わせて考えるのかを整理します。
求人を見るときも、勤務時間を相談するときも、会社が考えていることが少し見える。そのうえで、自分に合う働き方を選べる。
そんな視点で、連載を締めくくりたいと思います。
これまでの記事では、制度の変化や採用・教育の負担、勤務時間を増やすときの手取りと生活について取り上げています。
今回の話から気になったテーマがあれば、こちらもご覧ください。