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株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)

2018年12月3日  · 

【外国人が我が国の総理大臣になるときは来るのか?】

原田武夫です。

お陰様でこちらも大好評を頂いております、弊研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット所属のグローバル調査コンサルタントによるリレー連載のコラム。

今回は大和田克のコラムを掲載させて頂きます。

フランス元首相がスペインで市長選に立候補するという、いわば“越境する民主主義”とでもいうべき流れが欧州に到来しています。それがもたらすものは何か?また我が国で同様の事態が生じるのか否か?

下記よりどうぞご笑覧下さい。

そして・・・拡散を!

・・・

外国人が総理大臣になる日は来るか ~“越境する民主主義”を考える~

 近代以来、国家体制の基本的なモデルとして「国民国家」という概念がある。1848年に欧州各国で生じたいわゆる「1848年革命」を機にウィーン体制が崩壊することで同概念は欧州中で広がった。

 英語で「国民国家」を指す“Nation-state”という用語 は「一民族により構成される国家」の意で用いられることが多い。したがって「国民国家」と呼ぶと「単一民族国家」と解釈する場合も多い。

 しかし欧州のどの国を取ってみても「単一民族である国家」は明らかに存在しない。「国民国家」の先進国である英国を例にとってみても、イングランド人やウェールズ人、スコットランド人に加え、旧植民地由来のひとびとが住むこともあり、簡単に“英国人”というものを決めるのは困難である。フランスを取ってみても同様である。隣国であるドイツやイタリア、スペインなどと領土紛争を歴史的に何度も行ってきたことからも明らかである。第2次世界大戦後の世界を考えてみても、植民地の独立、難民の流入、民族紛争の発生など「国民国家」という概念はより不鮮明になってきている。

 そうした中で、政治体制を考えるに当たってさらに新たな事態が生じた。フランスのマニュエル・ヴァルス元首相が今年(2018年)9月26日(パリ時間)、来年(2019年)5月26日(バルセロナ時間)に実施予定であるスペイン・バルセロナ市長選に立候補すると宣言したのだ。つまり、ある国の要人が外国で首長の地位に立候補するという事態である。

 ヴァルス元首相はスペイン国籍(二重国籍)を有するため、直上で記述した「外国で首長の地位に」という下りは厳密には誤りである。しかし同元首相はフランスで、エヴリー市長や国民議会議員、そして内務大臣および首相(オランド前政権)を歴任してきた生粋の“フランス要人”であり“フランス国家を代表する者”なのである。そのヴァルス元首相が“スペイン要人”にもなろうとしているのだ。ただでさえスペインからの独立で揉めるカタルーニャ州の中心都市であるバルセロナにフランスが関わりつつあるという意味で事態はより複雑になっている(ただしヴァルス元首相は反独立派である)。

 そしてヴァルス元首相よりも衝撃的な事態が再びフランスが関わる形で生じた。それがフランス駐米大使などを歴任してきたズラビシビリ元ジョージア外務大臣が先月(11月)29日(トビリシ時間)、ジョージアの大統領に当選したのだ。大使職もまた、国家の代表であるわけで、“フランス国家を代表する者”が“ジョージア国家を代表する者”になったのである。

 トランプ米大統領がグローバル社会を分断し、保護主義を取っていると言われている。それに対し、こうした外国での立候補・当選は「欧州連合(EU)」という形で“一つの欧州”を象徴する具体例であると取れなくはない。しかし、ジョージアはスターリンの出身地であり、旧ソ連圏であった場所である。親ロシア派から見れば、「ズラビシビリ大統領の誕生」は欧州連合の拡大という意味で侵略であるとも取れなくはないのだ。

 ここで注目したいことが2つある。1つはズラビシビリ女史の大統領就任はあくまでも「選挙により合法的に選出された」ということである。政治体制が変革を迎えるときに「選挙で合法的に変革する」ということが切っ掛けになることは少なくない。その代表例がナチス・ドイツの登場である。ナチス党は1923年にはクーデターを起こしたこともあり、異端の政党であった。しかし1932年の大統領選挙ではヒトラーは惜しくも落選するも、その翌年にはナチ党は議員選挙で多数派となりヒトラー内閣が成立している。他方でアルジェリアでもまた選挙が切っ掛けとなる政治体制の転換が生じる手前まで至ったことがある。同年の選挙で国民が「選挙を通じて合法的に」イスラム原理主義化を選んだという事態である。軍のクーデターによりイスラム原理主義化は実現しなかったものの、その後イスラム原理主義者らとの泥沼の内戦に突入している。

 マクロン大統領率いる現在のフランスはメルケル独首相と連携し、米国の保護主義化に対抗しているとされる。しかし両首脳は「欧州軍」の創設を宣言しているのである。これは北大西洋条約機構(NATO)を通じて欧州各地に駐留する米軍と対立するものであり、この意味では「欧州ブロック化」を強めていると言えるである。

 注目したい2つ目は、欧州では歴史上、外国の首長が自国の首長になるという事態はよくあることであったということである。その典型がハプスブルク家であった。元来スイスの一貴族であった同家が婚姻などを通じて、スペインやオーストリアなどを取得してきたのである。それを通じて戦争や紛争をもたらし、「国家」の統一および解体を繰り返してきたということである。

 米欧は特に第2次大戦後、外国への進出に当たって民主主義の輸出をツールとして用いてきた。前述のアルジェリアも旧仏領ということもあり、フランスが長年フランス式の国家体制導入を希求してきたものであった。そうした姿勢は現地で却って反発を呼ぶものであることは言うまでもない。

 ヴァルス元首相やズラビシビリ元大使の上述した“越境する民主主義”とで言うべきこうした動向は、一見「欧州連合(EU)」を強化する様に見えて、各国・各地域の政治体制の転換を加速化させることになりかねないのである。

 このような“越境する民主主義”が我が国で起こり得るのかどうか。まず現行の法律下で議員や知事といった公職に関する被選挙権を得るための要件をまとめるとこうなる:

 ●日本国籍の保有:日本国民であること

 ●年齢:25歳以上であること(参議院議員・都道府県知事は30歳以上)

 ●選挙権の有無:都道府県議会議員・市区町村議会議員の場合、は立候補する自治体の選挙権を有していること

 つまり大前提として「日本人」であることが重要となってくる。他方で外国人(国籍法では「日本国民」でないものと定義)が「日本国民」になるための方法は、我が国では国籍法(第4条から第9条まで)で「帰化」手続を行うことと定めている。帰化するための要件は大雑把に言うと以下のとおりである:

 1.基本的には以下のすべての要件を持つ外国人が法務大臣へ許可申請を行う

  ―連続して5年以上日本に住所を有すること

  ―20歳以上で本国法によって行為能力を有すること

  ―素行が善良であること

  ―自分または配偶者やその他親族の資産または技能で生計を営むことができること

  ―無国籍者または日本国籍の取得によってそれ以前の国籍を失うべきこと

  ―日本国憲法や日本政府を転覆することに加担したことがないこと

 2.ただし以下の要件を満たす場合、1.の要件に欠けるものがあっても許可が下りる場合がある:

 (1)以下のいずれかを満たした上で日本に現に住所を有すること

  ―日本国民であった者の(養子でない)子で連続3年以上日本に住所または居所を有するもの

  ―日本で生まれた者で連続3年以上日本に住所か居所を有する、またはその実父母のどちらかが日本で生まれたもの

  ―引き続き10年以上日本に居所を有する者

 (2)配偶者が日本人

  ―日本国民の配偶者で連続3年以上日本に住所または居所を有し、さらに現に日本に住所を有するもの

  ―日本国民の配偶者で婚姻してから3年を経過し、さらに連続1年以上日本に住所を有するもの

 (3)子どものときに日本国籍を有していなかった

  ―日本国民の(養子でない)子で日本に住所を有するもの

  ―日本国民の養子で連続1年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年だったもの

  ―日本国籍を失ったもの(日本に帰化した後日本の国籍を失ったもの以外)で日本に住所を有するもの

  ―日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き3年以上日本に住所を有するもの

 (4)日本に特別の功労のある外国人(*ただし国会の承認が必要)

 我が国で国籍取得を考える場合に非常に重要なのは、米欧で一般的な「出生地主義」ではなく「血統主義」を取ってきたということである。上述の要件もその「血統主義」を前提としてきたものである。「出生地主義」よりも「血統主義」の方が要件として厳格なのは明らかである。日本では二重国籍は原則認めていないため、問題が無いようにも見える。

 しかし、我が国で問題となりかねないのがいわゆる「在日問題」である。端的な例が蓮舫・参議院議員である。同議員を巡って2016年に「二重国籍疑惑」が取りざたされた。また去る2008年1月には「在日韓国人をはじめとする永住外国人住民の法的地位向上を推進する議員連盟」という議員連盟が民主党(当時)内に設置されてきたこともある。

 我が国は血統主義により一見、米欧よりも外国人に対し厳格な処置をしている様に見える一方で、帰化一世が国会議員に就任することが可能であり実態としては甘い点も多い。米国であっても大統領に立候補する場合、過去3代のルーツを公開することが義務付けられている。

 2000年代後半から2010年後半までの自民党→民主党→自民党という与党転換の中で「外国人参政権」というテーマでこの問題は議論されてきた。そのときに賛成派が論拠としてきたのが米欧の状況であったわけである。その一方である米国では、トランプ米大統領が「出生地主義」を見直すかのような発言を行ってきた。他方で欧州は上述のとおり、“越境する民主主義”を行った結果、却って現体制の揺さぶりを生じさせる可能性も無視できないのである。それらに乗じて、我が国でも外国参政権について外国人にとって厳しい状態が生じる蓋然性は低くないと言える。

 ただし留意しなければならないのは、我が国は歴史上、外国人を我が国や政治体制に吸収していくことで発展を遂げてきたという事実である。たとえば我が国は百済難民を迎え入れてきたし、江戸時代には鎖国体制下であったにもかかわらず明から亡命者を迎え入れてきたのである。

 “Pax Japonica”を迎えるに当たり、日本発で新たな体制を発信することとなれば、必然外国から日本に向けて人々が殺到するはずである。そうなったときに、我が国がどのように外国人を処すればよいのか。単なるヘイト・スピーチではなく、かといって「内政干渉」といった一種の“侵略”を防ぐことが可能な新しい「政治モデル」が求められていることは言うまでもない。

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