物語の主人公には、大抵、強力なライバルがいるものです
『うつほ物語』にも、もちろんいますよー
『うつほ物語』には、主人公的なヒトが何人かいるのですが
(エピソードによって「このヒトが主役」というのが違うので)
全体を見渡したら、やっぱり藤原仲忠さんが主人公です
何度か話題にしていますが
山奥の木の空洞(うつほ)の中でお母さんを養うという
なんとも数奇な少年時代を過ごしたヒトです
貴族社会にデビューしてからは
母方である清原氏の琴と学問を継承しつつも
父方である藤原氏の政治的な実務能力をフルにいかして
どんどん出世しちゃいます
王朝物語の主人公って
恋する男としては素敵だけれど、社会人としてはどうなのよ
なヒトが多いのですが
仲忠さんは、何より社会人として素晴らしいです
そんな仲忠さんにも
やっぱり、ライバルキャラが出てくるのですよ
それが、源涼(みなもとのすずし)さん
『うつほ物語』が書かれて間もない時期から
「仲忠と涼、どっちが好き」という議論が起こっていたぐらい
人気のキャラクターです
……ちなみに、その議論は『枕草子』に描かれているのですが
そのハナシはまた今度
涼さんはどういうキャラクターかというと
なんと、帝のご落胤なのです
設定からして、仲忠よりも身分が高い……
もちろん、「お父さんに認知してもらっていなかった(というか存在を知られていなかった)」という意味では
仲忠さんも涼さんも条件は一緒なのですが
仲忠さんは藤原氏の子……
涼さんは帝の子……
負けてるよ仲忠 ライバルにして強力過ぎるよ涼
というわけです
涼さんのお父さんは嵯峨帝というミカドなのですが
実は「嵯峨天皇」というミカドは実際の歴史上にも存在します
というか、書道が得意で「三筆」のひとりとして高校の歴史教科書に出てきます
この、実在した嵯峨天皇は、やたら子だくさんでして
子供たちを全員皇族のままにしていたら国家財政が破綻する
ということで、皇子たちに名字を与えて一般貴族にする
ということをさかんにしました
そこで与えた名字が「源」 そう、「源氏」です
で、嵯峨天皇の皇子で源氏になったヒトって
源信(みなもとのまこと)とか源融(みなもとのとおる)とか
みんな、下の名前が漢字一文字なんですよ
だから『うつほ物語』の嵯峨帝も源涼さんも
もちろんフィクションのキャラクターではあるのですが
「『嵯峨帝』の子で名前が漢字一文字……」
と思うと、歴史上に実在した嵯峨天皇の皇子たちをイメージせずにはいられません
「源涼」という名前だけで
なんだかすっごく毛並みの良い貴公子が登場した……
ということになるのです
強力なライバルキャラの涼さん
設定だけでもステキなのですが……
この上さらに、仲忠にないモノをもっているのです
それは、次回