「目がキレイだね」「肌がキレイだね」「手足がスラッとしているね」など、身体的な特徴を褒める言葉は数多くあると思うが、
「いい血管ですねームッキムキ!」
こんな褒め言葉を言われる人は、そう多くはいないだろう。それを言われたのは、もちろん私。
褒められるということは、たとえそれが血管だとしても嬉しいものである。
その立派な血管から点滴を入れ、3時間後に手術は始まる。私は、この3時間が退屈、いや、もはや苦痛でしかない。
そんなこともあろうかと、私は事前に動画を用意しておいた。
それは「チェアバレエ」。
チェアバレエとは、バレエの動きを取り入れながら、椅子に座ったまま筋肉を鍛えられる運動のこと。スペースを取らず、足腰が弱い方でも無理なくできるのが特徴だ。
点滴棒の持ち手の部分にスマホを置き、ベッドに腰掛けながらやってみる。音声は、もちろんイヤホンから。
TV画面に自分の姿を映しながら、優雅に手足を動かす。カーテンを閉め切っているので、誰にも姿を見られることはない。
そうそう!私が好きなのはコレコレ!
…と、突然!
「〇〇さん」
という声と同時にカーテンが開いた。
現れたのは、私の執刀医。
私は、急いでスマホをお尻の後ろの方へ隠した。
先生は、昨日の検査結果のことや、これから行う手術のことを説明し始めた。
先生の目をしっかり見て、ウンウンと頷く私。
あ。
ヤバ。
耳にはイヤホン刺さったままだ。
私は慌ててイヤホンを剥ぎ取り、
「すみません!」
と先生に言った。
先生、ごめんなさい。
どんだけ図太い神経の患者なんだ!!…と思われたな、おそらく。