国道を走るタクシーがいないかしばし探す…待てよ。タクシーで行くということは、またタクシーで戻ってこなくてはいけないということだ。余計な出費はできるだけ避けたい。
私は国道にくるりと背を向け、今お金を下ろした店舗に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
窓口の女性が笑顔で迎えてくれた。
ここで、私は決して「〇〇の妻」ということを名乗ってはいけない。幾度、この店舗で恥ずかしいことをしてきたことか。(ATMの硬貨を入れるところに小さなゴミを入れてしまってATMを壊した…など)
[また〇〇さんの奥さん?]と、主人が笑われるのがオチだ。
私は、一般客を装い、
「すみません。あの、、、さっきATMでお金を下ろして車に戻ったら、車のシフトレバーが動かなくて…。どなたか車に詳しい方いらっしゃいませんか?」
窓口で、こんなお願いをするのは、おそらく私が初めてだろう。申し訳ないとは思ったが時間がないので仕方がない。
すると、若い男性社員が登場!!
(お願い!お兄さんなんとかして!)
と、心の中で祈る私。
お兄さんは、運転席に乗り込みエンジンをかけた。
おっ!ブレーキランプは点灯している。…ということは、ヒューズが飛んでいるわけではないのね。
…しかし、そのお兄さんにもどうすることができなかった。ごめんなさい、お兄さん。
これで、私はタクシーで行く覚悟ができた。
そのお兄さんに対し、
「すみません、今病院に行かなくてはならないので、病院が終わったらロードサービスを呼ぶので、それまでここに車を置かせていただいてもいいですか?」
するとそのお兄さんは、申し訳なさそうに私にこう言った。