お年始の品を買いに、主人と街まで出かけた。

買物が済んだのは、お昼をかなり過ぎてからだったため、すでに我々のお腹はぺこぺこだった。

そんな我々がランチに選んだのは、カレー屋さん。たしか、ここはこの間当選した、500円分のグルメチケットが使えるお店だったはず。



私達は、そのカレー屋に足を踏み入れるのは初めてだった。店内を覗いてみると、カウンター席が56席と、ボックス席が少しあるようなこじんまりとしたお店のようだ。


入口に掲げてあるメニュー表をじっくりと眺めるととにかく種類が豊富!

価格とトッピングなどを照らし合わせ、メニュー表の上を目が行ったり来たり。そんな様子を見兼ねてか、小柄な女性店員が、

「中にもメニューがあるのでどうぞ」

と、ボックス席へ案内してくれた。



席に着いてメニュー表を見ても、

やはり種類の多さに、私はなかなか決断できない。しびれを切らした(と思われる)、先程の店員が、

「決まりましたか?」と再び声をかけてきた。

結局私は、ごくノーマルなビーフカレーをオーダーしたところ、一瞬彼女は「えっ?」という表情を見せた。(結局ビーフカレー?)という心の声が聞こえるかのようだった。


自分のカレーが運ばれてくる間にも、お客さんが出たり入ったり。お客さんは、圧倒的に男性が多い。


先程の店員さんは、相変わらずテキパキとした動きをしている。

入口に立っている人を見つけようものなら、すかさず「お一人ですか?空いている席に座って下さい」。


伝票を持たずにレジに来た客に対しては、

「何を食べましたか?(客が思い出している間もなく)あ、私が伝票取ってきます!」と、素早く身をこなす。


支払い中も、間髪入れず矢継ぎ早に

「スクエアカードやポイントカードありますか?」

「いつもご利用ありがとうございます」というフレーズも忘れない。


さて、いよいよ私のビーフカレーが運ばれてきた。「お待たせしました〜」と、運んできたのは、厨房から出てきた人の良さそうなおばさん。

ビーフはちょっと固かったが、辛くて美味しいカレーだった。





最後の一口をスプーンですくい、完食!

お水を飲んでコップを置くと、レジの前に立っていた先程のテキパキ店員と目が合った。

私が食べ終わるのを待っていた??

空の皿に目を落とした彼女は、すかさず、

「お下げしますね」と言って片付け始めた。


我々もコートに袖を通し、お会計へ向かおうとするや否や「お会計は別々ですか?一緒ですか?」と早口で聞かれた。

はて。我々は夫婦には見えなかったってこと?


帰り際に、さっきの人の良さそうなおばさんが出てきて、「お忘れ物はありませんか?」と、にこやかに声をかけてきた。


この時、初めて気付いた。

この方は、「人の良いおばさん」ではなく、「人の良いおじさん」だったということを。


私達が店を出たあとも、あのテキパキとした店員さんは、相変わらず入口に立つ客を見つけては、すかさず店内に案内していた。


それはまるで、カメレオンが獲物を狙う姿のように見えた。

私達は、カレーを食べに来たと思っていたが、実はカメレオンの餌食になっていた昆虫だったのだ。