ごっこ遊びの中で育まれる、様々な「力」について、お話してきました。
今回は、まとめとして、実際に私が担任していた5歳児のクラスでのエピソードを紹介したいと思います。
5歳児(年長児)、26名のクラスでした。
12月の生活発表会で、劇遊びをすることになり、どんな劇にしたいか、みんなで相談しました。
「みんなが知っているお話がいい」
「できるだけ、たくさんの人・動物がでてくるお話がいい」
ということで、数多く出された候補の中から、
「七匹の子ヤギ」
「シンデレラ」
の2つをやることになりました。
一人一人、どちらか自分の参加したい方のグループに入ります。
女の子の8割程が「シンデレラ」を希望しました。
皆、自分こそシンデレラになれると夢見心地です。
いよいよ役決め。
9人の女の子がシンデレラに立候補しました。
私「9人も、シンデレラにはなれないね。」
子ども達「お姉さんとか、魔法使いもいるよ。」
「ナレーターだっているよ。」
私「どうする?」
子ども達「ジャンケン?」
「うん、ジャンケン!」
9人で工夫してジャンケンをし、だんだん脱落していく女の子たち。
でも、すぐに、
「じゃあ、私、ナレーターになるよ。」
「私、王子様にする。
いつも、お姫様ごっこの時、王子様やってるから。」
「ねえ、先生。 お姉さんも、舞踏会の時、ドレス着るよね?
私、お姉さんにしようかな。」
などなど、シンデレラになりたかった気持ちを切り替え、自分の役割を見つけていきました。
正直、泣く子が出たり、もっと揉めたりするかも…と覚悟していたのですが、子ども達の心の成長を見せつけられた思いでした。
シンデレラ役の方は、最後にハナちゃんとユリちゃんの2人が残り、結局ハナちゃんが勝って、シンデレラ役を獲得しました。
ここで、私から一つの疑問を投げかけました。
「シンデレラには、魔法がでてくるよね。
ボロボロの服がドレスになったり、かぼちゃが馬車になったり。
どうしようか?」
この時点で、私の中では、
「パッと着替えのできる衣装を工夫すればいいかな…」
くらいの気持ちだったのですが、
一応、このワクワクするような大問題を、子どもたちとも共有してみたかったのです。
すると、ナオ君から、意外なアイディアが出てきました。
ナオ君「誰かがボロボロの服をきていて、
パッとドレスのシンデレラと交代するっていうのはどう?
例えば、ジャンケン2番だったユリちゃんがボロボロ服を着てさ
ドレスのハナちゃんとサッと、チェンジするの。」
私「ああ、確かに。
それだと、魔法らしく見えるかな?」
子ども達「見える、見える!」
でも、肝心なのは、ユリちゃんの気持ちです。
一度はあきらめたシンデレラ。
しかも、あこがれていたドレスは着られず、ボロボロの服だけなんて。
私「ユリちゃん、どうする?
シンデレラだけど、ドレス着られないんだよ…。
いやだったら、ほかの役でもいいんだよ。」
ユリちゃん「いいよ。私、やるよ!!」
ナオ君のアイディア。
そして、ユリちゃんの決断。
周りのこどもたちの温かい雰囲気も含めて、私は感動していました。
この出来事自体は、純粋な意味での「ごっこ遊び」からは、ちょっとはずれているかもしれません。
でも、
「想像力」
「問題解決の方法」
「自己コントロール」などなど、
毎日の遊びの中で育まれた一人一人の力が発揮された、素晴らしい場面でした。
この子ども達を私は、心から誇りに思いました。
後日談があります。
劇の練習が始まり、その様子を見た他のクラスの先生から、
「ユリちゃん、あれでいいの?」と心配されました。
私は、事の成り行きを説明し、ユリちゃんは、2番目のシンデレラとして、納得してやってくれていることを話しました。
実際、いつもは元気一杯、人一倍大きな声のユリちゃんが、劇の時は、うつむき加減で
「はい、お母様…」
「はい、お姉さま…」
と弱々しい声で話すのです。
ぼろをまとったユリちゃんが、可哀想なシンデレラになりきっているのです。
でも、同じ心配は、他の大人が見れば、きっと誰もが抱くことでしょう。
私は、職員会議で、他の先生達にも、子ども達の成長した姿だととらえてもらえるよう、説明しました。
そして、何より、ユリちゃんのお母さんにも、伝えなくてはなりません。
私が話した時、お母さんはすでにユリちゃんから大体事情を聞いていたようでした。
お母さん「ユリが、シンデレラやるんだって?」
私「そうなんですけど・・・」
お母さん「聞いたよ~、せんせい。
魔法かけられる前のシンデレラなんでしょ?
大丈夫、大丈夫。ユリも張り切ってるよ~」
と、笑顔で納得してくれました。
そして本番。
魔法で、一瞬のうちに、大柄なユリちゃんシンデレラから、小柄なハナちゃんシンデレラに変身した場面は、場内からの温かい笑い声に包まれました。
(文中・仮名)
(HP「ゆっこせんせいのおもちゃ箱>コラム」より)