「もう起きてよ。病院へ行く日だから連れてってよ」

という母の声で血の気が引いた。


「なんで二階に上がってきたの!」


数週間前から

ろくに歩けなくなっていた母。


それが、二階に…いったい、どうやって⁈

手すりはあるけど、よく足が上がったな…。


がしかし、よく途中で落ちなかったなーと。


そして、病院へ行くから起きろと

訳の分からない事を言ってる。


「お母さん。まだ朝の7時にもなってないし。外、真っ暗じゃん。さらに今日、日曜日だよ、病院やってないよ」


「あれ、そーかい。日曜日?」


「そうだよ。だからとにかく下に降りよう」


まずは階段に座らせ、一段ずつ

足をおろし、おしりをずらしながら

無事下までおろして寝室へ。

「はい、寝てください」といって

なんとか寝かせた。


今日は唯一、目覚ましをかけないで寝られる日なのに、よりにもよってなぜ…。


そして午後にも事件は起きた。


洗濯をし、自分の部屋の掃除をし、

両親にお昼を食べさせて

買い物がてら散歩をし、

帰宅後夕食の支度まで

自室でまったりしていたら…。


なんか、音がする。

嫌な予感。

ドアのほうをのぞくと、

またしても母が二階に上がってきた。

「何やってるの!なんで上がってくるの!もし途中で落ちたらどうすんの!」

ややキツめに言った。

そうしたら

「いいから。散歩してるの」

「歩かないと、歩けなくなるから、二階に上がったりおりたりするの!」


ええええー!

勘弁してください!

「今さらそんなことして、もうすでに足、動かなくなってるのに、もし途中で落ちたらどうするの!とにかく降りて!」


ここのところ、

歩けないどころか

自分の足が全く動かないのでさすがに

運動しないとまずいと思ったらしい。


だけどさ…、もう遅いんだよ、お母さん。

それに加齢による筋力低下だけでなく、

パーキンソン病もあるから、

自分で思ってるようには動いてくれないんだよ、

足が…。


「お父さん!お母さんがまた二階に上がってきた!」と父に言ったらビックリしていた。


「お前が散歩にでかけてたとき、お母さん、廊下にへたり込んで動けなくなってたんだ。やっとの思いで立たせてソファに座らせたのに、よく二階に上がれたな…」


認知症は

自分の状態をきちんと理解できていないから、

自制が効かない。

動かないと歩けなくなる、だから少しでも歩こう…と、とんでもない行動に出る。


いやもう、

どう考えても自宅介護は無理だよね。

ケアマネさんが一応車椅子を貸してくれたけど

どうやっても家じゃ使えないし。


極め付けは夜。

もう寝るぞと父が言ってるのに

母が父に

「今日、病院へ行けなかったから、病院へ電話して。予約を取り直さないと…」

と言ったらしい。