裸のミレディー。三銃士の心理学・最終話 | 九段下・渋谷・池袋・新宿・品川・上野・秋葉原★心療内科ゆうメンタルクリニック

裸のミレディー。三銃士の心理学・最終話

まずはニュースです!

9月2日(日)に、ひさしぶりのオフが開催です。
13時半スタートで、場所は銀座。パーティ形式で行います。

内容は、
「ミニ心理学講座」
「なんでも質問お答えコーナー」
「心理学ゲーム」などなど。

今年の夏に何もなかった人も、色々あった人も、ぜひどうぞ。

⇒ http://sinri.net/event/gin-off.htm



そして今回はメルマガ・セクシー心理学よりお届けいたします。


◆ 前回までのあらすじ。

アレクサンドル・デュマの大長編「三銃士」。

主人公であるダルタニャンは、敵である悪女ミレディーに惚れる。
しかしミレディーは、ワルド伯爵という人物が好き。

よって我らがダルタニャンは、暗闇に乗じてワルド伯爵になりすまし、ミレディ
ーをこっぴどくフる。

ワルド伯爵への復讐に燃えるミレディーは、ダルタニャンに言う。

「彼を殺して」


どうするダルタニャン!? ついに最終話です!


◆ 受け入れる、ミレディー。

ミレディーのその言葉に、ダルタニャンは身震いします。

彼女が憎んでる男を、自分が、殺す。


自殺しろ、ということですか。

ダルタニャンは無言で考えます。
さすがに、何の罪どころか何もしてないワルドを殺すのは良心がとがめます。

しかしミレディーは、彼がどんなにひどい男か説明します。

聞いているうちに、ダルタニャンは、本当にワルド伯爵が憎く感じてきました。
今目の前に彼が現れたら、本当に殺しちゃうんじゃないかと思えてきました。

手のつけようがないアホです。

「どうか私のことを愛しているなら、お願いです。彼を殺してください」

そう要求するミレディーの顔は冷静でしたが、瞳の奧には、強い怒りと恥じら
いがありました。

それがまた、ダルタニャンの気持ちを燃えさせました。

彼は、こう言ったのです。

「分かりました。ただ、殺そうとするからには、僕にも命の危険があります」

「はい…」

「…あなたの優しい言葉は嬉しいのですが、それだけで命を賭けろというのは、
ちょっと…」


オトナであるあなたなら、彼の言いたいことが分かりますでしょうか。

まさに悪代官です。
暗に何かを要求しています。

しかし、ミレディーに迷いはありません。

「…誰が言葉だけ、と申しましたか?」

「おお、では!」


そして、その夜。
ついに二人は、結ばれたのです。

「結ばれた」というほどロマンチックな展開かは分かりませんけども。


◆ 悲しみの、ケティ。

扉の前では、メイドのケティが、後悔と嫉妬で震えていました。

もう、すべてをミレディーに教えてしまいたい。

しかしそうしたら、もちろん自分が責められる。
そして何より、ダルタニャンがどんなことになるか分からない。

そう思い、彼女は耐えました。

一番のヒロインは彼女ではないかと思います。


ただ、当のダルタニャンも心の中は複雑です。

確かに、思いを遂げることはできた。
憎みつつも愛してしまったミレディーを、自分の手の中に落とすことはできた。

しかし彼女が自分を「復讐のための駒」としか考えてないことは、火を見るよ
りも明らかです。

でも、そこはダルタニャン。

「なんだかんだいいつつも、ワルドより自分の方がずっとイイ男だから。結局
はミレディーちゃん、自分の方が好きなんじゃないかなー? 復讐って名目だっ
たりするんじゃないかなー? えへへ♪」
(意訳していますが基本は原著に忠実です)

と、恐ろしく甘い思考をしておりました。

◆ 驚きの、ミレディー。

そして、ダルタニャンにとって、夢のような一夜が過ぎました。

次の日の朝。
シーツにくるまれたまま、ミレディーはダルタニャンに聞きました。

「で、いつ実行してくださるの?」


え、やるんだ。
本当に、やるんだ。

ダルタニャンは心からそう思います。

一晩過ぎて思いを遂げると、「復讐? 何それ?」という気持ちになっており
ました。
男の単純さをすべて凝縮させるとダルタニャンになります。

彼は何と言っていいのか考えたあげく、口を開きました。


「私は、あなたのことを、愛してます」

彼女は突然の言葉に目を見開き、そして言いました。

「…は、はい…」

「あなたは、どうですか?」

「………証拠はもう、見せたつもりですけど」


人は言い切ることに良心の呵責があるとき、そのものズバリの言い方を避ける
ものです。
そのため、「私も愛してます」ではなく、このような言い方をするわけです。

もちろん、ダルタニャンは、そんなことには気がつきません。
彼は目を輝かせて言いました。

「良かったぁ!」

「それが、何か?」

彼女の言葉に勇気づけられるように、ダルタニャンは続けます。

「じゃ、じゃあ、あの! 私があなたのことを愛するあまり、あなたに罪を働
いたとしても、許してくれますか?」


人間心理には、「認知的不協和理論」というものがあります。

たとえば、好きな人がイヤなことをした場合に、
「私はその人のことをすごく好きだから、こんなイヤなことも耐えられるんだ」
というように、思いこむ心理のことを言います。

大きなプラスがあれば、小さなマイナスは、かえってプラスを強める作用があ
るわけです。

彼はそれを期待したわけですね。


ミレディーは、言いました。

「………たぶんね」


この男は、何が言いたいんだろう。
ミレディーは射貫くような瞳で、ダルタニャンを見つめます。

彼は言葉を続けます。

「実はワルド伯爵って、そんなに悪いこと、してないと思うんですよ」

「…は?」

あいまいな言葉で話した方が、ショックは小さいと思ったのでしょうか。
ここに来て余計な親切です。

しかしミレディーは、まだ言葉の意味が分かりません。

「………まさか、決闘が、恐くなったんですの…?」

「いやいやいや! そうじゃないんです! ほら、前にワルド伯爵が、夜に来
たことがあったでしょう?」

「!? どうしてそのことを!」


ミレディーの動きが止まります。

ダルタニャンは、深呼吸して、言いました。







「だってあれ、僕でしたから」



ミレディーは、何も言いません。

突然の言葉に、状況が飲み込めない状態でした。

彼はダメ押しのように、ポケットを探りました。

「ほら、この指輪」

彼はあの晩にミレディーからもらった指輪を出して、誇らしげに見せました。

「!!」

疑いようがありません。
ミレディーはひと言も発さず、呆然とその指輪を眺めていました。

「………」

「………」


二人とも、無言です。




「もう、バカバカバカ! ダルタニャンさん、ヒドーイ! 私、本気にしちゃ
ったんだからあ! …でも、そんなオチャメなあなたが、好き…!」



そんなラブコメ展開が、彼の頭の中に浮かびました。

彼女は無言のまま上半身を起こし、ベッドの近くの棚に手を伸ばします。

お茶でも入れてくれるのだろうか。
彼はそう思いながら、言葉を続けました。

「驚かせてしまって、すみません。でも、それだけあなたを…」

その瞬間、ダルタニャンは耳元で、風を切り裂く音を聞きました。
思わず彼は裸のまま、ベッドから落ちます。

何が起こったのか、分かりません。

目の前では、衣服もつけず、鋭く光るナイフをこちらに向けた、ミレディーの
姿がありました。


彼女はゆっくりと近寄りつつ、言いました。


「変なお願いをしてしまって、すみませんでした」

「…えっ…」


「自分で、やることにしましたから」


その言葉と同時に、ミレディーがナイフもろとも飛びかかってきます。


「う、うわあああああ!」

彼は、大急ぎで衣服を手に取ると、隣のメイド部屋に逃げ込み、そこにいたケ
ティに言いました。

「助けてくれ!」


そのまま死ねばいいのに、と言わないのがケティの優しさでしょうか。
彼女は彼に大急ぎで服を着せ、裏口から逃がしてあげました。

「その男を逃がさないで!」

ミレディーは窓から大声で叫びますが、すでにダルタニャンは、はるか屋敷の
外まで逃げたあとでした。


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◆ 今回のまとめ。
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○ 自分が好かれてると思う人は、相手にちょっとしたマイナスを与えるとい
いでしょう。

○ でも想像より好かれてなかった場合、危険なことになりますので注意して
ください。



◆ おわりに。

「三銃士」の中から、ダルタニャンとミレディーのエピソード。
いかがでしたでしょうか。

その後、本当に言うまでもないんですが、ミレディーはダルタニャンを暗殺し
ようとします。刺殺・銃殺・毒殺など、バリエーションも豊富です。

こうしてみるとある意味、この「三銃士」というのは、逆にミレディーが主人
公の「復讐譚」なのかもしれません。


絶対的な正義、悪は存在しません。

レッテルを貼るのはカンタンですが、「それぞれに、それぞれの事情がある」
と考えてみることが、何より大切なのかもしれません。

まぁ、それ考え出したらキリがないのも確かなんですけど。


ちなみに僕は、この本を中学のときに読んで以来、「悪女に強く感情移入する」
というスキルを学びました。スキルというか性癖です。

あらためてまた自分の刷り込みが判明しつつも、みなさまここまでおつきあい
くださり本当にありがとうございました。


(完)






そしてここまで来てくださって、本当にありがとうございました。
ウラ話として、小ネタ集を。


実はこの最終話の冒頭、ミレディーがダルタニャンに依頼する部分で、彼はこんな失言をしています。


「その男の名前は…」

そう言いかけたミレディーに、彼は思わず、こう言いました。

「知ってます! ワルド伯爵ですよね!」

その瞬間、ミレディーの表情が強ばりました。

「………何で、知ってるの?」

アホです。
世界一のアホです。ダルタニャン。

「…教えて。なぜご存じなの?」

あわてて彼は言います。

「いや、ワルドのやつが、自慢していたんですよ。自分に惚れてるミレディーから指輪をせしめたって」

「な、何てこと! もう許せない!」

彼のウソで、何もしてないワルド伯爵はどんどん窮地に立たされていきました。
切なすぎです。


あとコメントで「ワルド伯爵は名前からして悪そうだ」というご意見本当にありがとうございました。

「悪ド伯爵」でしょうか。
その発想に乾杯です。


そして、三銃士のアトスと、このミレディー。
実は「夫婦」だったのです。

しかしミレディーはそこから逃げ、そのことを隠して、ある男と再婚。
さらにその再婚相手は死に、そしてこのエピソードに至ります。

そう考えると、アトスとダルタニャンの関係は結構生々しいです。


またメイドのケティですが、言うまでもなく、ダルタニャンの直後にミレディーの屋敷を逃げています。

一応、そのあとにアラミスが、彼女に就職先の世話をしてあげています。
ダルタニャンではないところがポイントです。何をしてるんだお前は。

心から、一番の悲劇のヒロインはケティだと思います。


最後に、原著から、デュマ先生のこんな描写を紹介します。

「ダルタニャンは、ミレディーとケティを見て、神が間違いを犯したと思った。
貴婦人の方は、娼婦のような卑しい魂を持っているのに、女中の方は、公爵夫人のような高貴な心を持っているのだ。」


そう思うのなら、もっと幸せにしてあげてほしかった。

偉大なデュマ先生に心からそんな気持ちを送りつつも、みなさまここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。




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