お見合いの女医。2
お見合いの女医。2 これは、4人のドクターたちの日常を描いた愛と情熱の日記です。 |
マヤ「宿題の答えは?」
ユウ「……は?」
マヤ「しゅくだいの、こ・た・え・は?」

マヤ先生に説明を求めた場合、たいてい同じ言葉を二回繰り返していただけます。
「この言葉で分かるでしょ?」
という意味のようです。
それ以上のヒントはありません。
僕はIQ3の頭を必死に働かせて、それが前回の「お見合いで趣味を聞かれたときに何て答えるか」という宿題のことだと気がつきました。
ユウ「………あの、考えたんですけど」
マヤ「なぁに?」
マヤ先生の語調が全体的に伸びているときは、たいてい怒っているときです。
これを心理学では反動形成と言います。
ちなみにフラれたショックでプチ整形をすることは、反動整形と言うのだろうかと思いましたが、たぶんこんなことを考えている余裕はないだろうことが分かりました。
ユウ「趣味なんですが、とにかく『ヒマでなくて、いいイメージ』を作りたいんですよね?」
マヤ「そうね」
ユウ「だったらもう開き直って、和風な王道を言ったらどうですか?」
マヤ「王道?」
ユウ「………」
マヤ「緊縛とか?」
ユウ「茶道とかです」
マヤ「あぁ、そっちの」
そっちしかないと思いました。

マヤ「なるほど、茶道かぁ…。確かに優雅なイメージがあるわよね」
ユウ「はい。お嬢様っぽくないですか?」
マヤ「ってちょっと! 私、茶道なんて、したことないわよ!?」
ユウ「………」
マヤ「千利休の思想なんて、まったく分からないわよ!?」
ユウ「………」
マヤ「団鬼六の思想なら、隅から隅まで知ってるけど」
うん。聞いてません。
(訳注 団鬼六…SM小説の大家)
マヤ「それに茶道ってアレでしょ!? 甘ったるい和菓子と、にっがい抹茶を飲んで、それでも誉めないといけない、アレ」
ユウ「………ま、まぁ………」
この時点で、先生は本当に茶道に向いていないと思いました。
マヤ「何にしても、やってもないことを言うのは、ねぇ…」
ユウ「りょ、良心が痛みますか?」
マヤ「ううん。ダマし通せる自信がない」
そうですよね。
ダマせればOKなんですよね。
ユウ「い、いや、でも、抜け道ってあるんじゃないですか?」
マヤ「抜け道?」
ユウ「ほら、茶道といっても、色々な種類があるわけですし…」
マヤ「…なるほど…」
ユウ「そうですよ」
マヤ「じゃあ、たとえば、『加藤茶について極めた』とかでも、茶道って言っていいわよね」
それは、絶対に違う。
マヤ「え、お茶の方と勘違いされてたんですか!? オホホホホ。
私が言ったのは、加藤茶の方なのに!」
ユウ「………」
マヤ「これなら間違えたのはあっちだし、私に罪はないわよねぇ」
罪はないけど、次もないな、と思いました。
僕は心からそう思いながら、秋の終わりかける空を眺めるのでした。

みなさま今後ともよろしくお願いいたします。