バリで落ちる女医。13 | 九段下・渋谷・池袋・新宿・品川・上野・秋葉原★心療内科ゆうメンタルクリニック

バリで落ちる女医。13

バリで落ちる女医。13

これは、4人のドクターたちの日常を描いた愛と情熱の日記です。

<前回のあらすじ>

バリに来たマヤ・ユウ・リオ・エリ。
ユウたちは、マヤの提案でバンジージャンプをすることになる。
すでにリオは飛び込み、ユウもついに飛んだ。

しかしユウはマヤの陰謀によって、再びエリと共に飛び降りることになった…。
どうなるユウとエリ!?

<本編>

バンジーチケットにあった「YU」の文字。

僕はユウという名前を、この瞬間ほど捨て去りたいと思ったことはありませんでした。

ああ、ユウ。
あなたはなぜ、ユウなの。


心の中のジュリエットが叫びます。

しかし、その声は誰にも聞き届けられません。

係員はそのチケットを手に取ると、ニコッと笑いながら、僕の体に器具を巻いていきました。
なつかしい感触が、再び戻ってきます。



バンジージャンプには、2種類あります。
1つは、普通に一人で飛び込むタイプ。

僕とリオ先生が、先ほど行ったものです。


もう1つは、二人で飛び込むタイプ。

ヨーロッパからハネムーンに来たカップルなどが行うため、「ハネムーンジャンプ」などと呼ばれたりします。

「よし、OKだ」


係員さんが、僕たちに言いました。
僕は、あらためて今の自分を認識します。

僕の腰は、固くエリさんと固定されています。
そして僕の手は、しっかりとエリさんの腰に回されています。

これがバンジージャンプ直前でなければ、夢のようなできごとです。


僕は想像の中で、エリさんとのハネムーンを描きました。




二人は結ばれ………。

そしてその直後、落下する。




なんていうか、血のハネムーンです。



幸せな想像も、圧倒的な現実の前に、マイナスな妄想に支配されました。


エリさんは、僕の体をギュッとつかみます。

そう。
密着できるのは、非常に嬉しいことです。

しかし、です。


カマキリのオスは、交尾の代償として、メスのカマキリに食べられます。
すなわち、食べられない限り、交尾してもらえない。

このことを知った瞬間、なんてカマキリのオスというのは哀れな生きものだ、と思いました。

でも。
僕も、バンジーしない限り、エリさんの腰に手を回すことはできない。


僕もカマキリのオス以上に哀れな生きものです。


僕の頭は、ぐるんぐるん回っています。先ほどの酔いも、まだ回復しきっていません。
こんな中、再び飛び降りたら、僕の脳はこれ以上ないほどシェイクされて、破壊されてしまうかもしれません。


ユウ「あ、あのっ………! エリさん、やっぱりぼ、僕………」

そう言うと、エリさんは言いました。

エリ「私じゃ、イヤですか…?




う。

ユウ「い、いや、私じゃ、というか、別にエリさんだからというか………そもそもこのバンジーをもう………」

エリ「私、ユウさんが一緒に飛び込んでくれるって知って、ホッとしました。私一人じゃ、絶対に飛び込めないから…

ユウ「い、いや、でも…」

エリ「私は、ユウさんがいてくれて、良かったです」

ユウ「………」


こういう言葉を聞いて、何かを言える男がいるのでしょうか。
悲しみに震える女性を目の前にして、それを拒絶できる男がいるのでしょうか。


僕は、あらためて下を見つめます。


すると下では、係員が、カバーの板を取り外していました。


ユウ「ん…?」

よく見ると、カバーの下から、小さめのプールが現れました。

ユウ「あ、あれは…?」

僕はすぐに、そばにいた係員に聞きました。
彼は答えます。

係員「あれは、念のためだよ


念のため。



というか、万が一ゴムが切れたときのための「念のため」でしょうか。
だとしたら、たぶんあんなプールごときでは、カバーすることはできないと思います。

おそらく自由落下の速度では、プールの底にゴチンでしょう。
まるでプールなんて、あてにはなりません。


ユウ「い、いやっ………!」

しかし係員は、笑いながら言いました。

係員「GO! GO!」

他の係員も言います。

係員「二度目だから、楽勝だろう?」


二度目だろうが三度目だろうが、たぶん恐いと思います。

僕は隣にいるエリさんを見つめます。

エリさんは、ガクガクと震えたまま、目をつぶっていました。


ユウ「………」


彼女が自分から、飛び込めるわけがない。
僕が自ら、飛び込んであげないといけないんだ。


かの石川五右衛門は、幼い子供とともに釜ゆでの刑にされた際に、ゆでられている間、幼い子供を、釜の中でずっと持ち上げていたそうです。
そして釜の温度が極限まで熱くなったとき、はじめてその子供を釜に落としました。

苦しみを一瞬で終わらせてやりたい。
すべてはそんな気持ちからです。

僕はそんな伝説を思い起こしました。

僕は今、エリさんのために、石川五右衛門になろう。
彼女の苦しみを早く終えるために、今すぐ、飛び込もう。

………………。

石川五右衛門のことを考えながらバンジージャンプをする人間て、世界中ではじめてだと思います。

しかし、そんなことを考える余裕はありません。

僕は、さきほどと同じように、ただ体を倒していきました。


ユウ「ちぇえああああああああ!」

エリ「!!」

僕の体は、エリさんと共に、宙に吸い込まれていきました。




エリ「ああああっ!」

エリさんは、僕の体に、ぎゅっと腕と体を回してきます。
彼女の感触が、僕の側面に、心地よく触れました。




よく、エクスタシーを「落ちる」ことにたとえたりします。
女性と男性が、二人で、落ちる。

これはもしかして、擬似的にそういう行為を象徴しているのではないでしょうか。


あぁ、僕は今、生きている。

バンジーをやってはじめて感じる、性の実感、いえ、生の実感。

思えば、この瞬間こそが、もっとも幸せなときだったのかもしれません。


僕の足が、少しずつゴムの抵抗を感じていきました。


しかし。

しかし、です。


そのゴムの抵抗が、先ほどよりも少ない気がします。


ユウ「………え?」

僕たちの速度は、地上に近づきつつも、勢いがいまだに衰えません。


ちょっと。

ちょっと、待って。


目の前に、少しずつプールが近づいてきます。


ちょっ!

待っ!!






水を突き抜ける音と共に、僕とエリさんの体は、プールの中に沈みました。






いったい何が起こったのか!?




長かった(書くのが)旅のあとに、ユウ・リオ・エリ・マヤが見たものは!?


待て、最終話!(なるべく早めに更新頑張ります)

(つづく)

素敵イラストはソラさん (女神)

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