シュークリームと柏行きチケット | 九段下・渋谷・池袋・新宿・品川・上野・秋葉原★心療内科ゆうメンタルクリニック

シュークリームと柏行きチケット

こんばんは。ゆうきゆうです。


メルマガ でもお話したのですが、つい最近、とても不思議な出来事がありました。
よろしければ、聞いてください。


先日、仕事の関連で、上野駅近辺をウロウロしていました。
同僚のドクターにシュークリームをおみやげに買って、さて電車に乗ろうと思っていたときのことです。

切符売り場のところで、後ろから突然に声をかけられました。


彼と謎の物体

(その方の写真です。彼の許可のもとに掲載しております。
彼の右手に持つものは、果たして…?)


「エクスキューズ・ミー」


英語です。
イングリッシュです。


その瞬間、僕は足りない英語力を必死に駆使して、返事をしました。


「イエス?」


僕が唯一、発音に自信のあるフレーズです。


相手は20歳前後でしょうか。さわやかな欧米人、という感じの男性でした。
彼はにこやかに言葉を続けました。


「キャン・ユー・スピーク・イングリッシュ?」


英語を話せるか? という質問です。いえ、訳すまでもないんですが。
僕は自信満々答えました。


「オフコース! ア・リトル!」(訳「もちろんさ! 少しだけね!」)


実力のなさを精一杯アピールする僕。
すると相手は言葉を続けました。
すべてを英語で再現するのは個人的に困難ですので、ここでは日本語に訳して話を進めます。


男性「私は今から、イバラキに行きたい」


ユウ「あ、なるほど」


それなら話は簡単です。


茨城方面に行くのは常磐線。その乗り場まで連れて行けばいいわけです。

そう思っていると、彼は言葉を続けました。


男性「バット・アイ・ハブ・ア・プロブレム」


ユウ「え?」


問題。
このあたりで、微妙に話が不思議な方向になってきました。


男性「アイ・ハブ・ノー・マネー」


ユウ「………」


えー!
何でしょうか。この展開は。


話を総合すると。


彼は今から「茨城」まで行く、と。
そして、とにかく柏(千葉県)までは電車で行って、そこからヒッチハイクで、何とか茨城まで連れて行ってもらうとか。


そうです。
彼の願いはたった一つ。


男性「プリーズ・バイ・ミー・ア・ティケット・フォー・カシワ


お金がないから、柏までの切符を買ってほしいそうです。


ていうか、ツッコミどころが多すぎです。


まず、なぜそもそもお金を持っていないのか。
それなのに茨城にまで行って、どうしようというのか。
それに柏からはヒッチハイクできるという、その自信の根拠は何なのか。
さらに、そのあとで自分の国へ帰れるのか。


心から色々と突っ込みたかったので、僕は自分の英語力を駆使して、聞きました。


「リアリィ?」


このフレーズがそのときの自分の限界でした。
自分の英語力がうらめしい。


もちろん彼の答えは、「イエス!」です。


もう、反論のしようがありません。


ちなみに上野から柏までの切符は約500円。
いえ、500円をケチるわけではありません。


しかし見知らぬ男性にいきなり言われて、すぐに「OK!」と500円を払える人が、どれくらいいるのでしょうか。


え。何これ。
僕はこれと同じ状況の心理実験を知っています。


通行人に実験者が突然に声をかけて、「お金を貸して欲しい」と言うのです。
その際も「お金をなくしてしまったから、電話代を」などの名目。
金額もせいぜい1ドル、100円程度です。


間違っても、「茨城までヒッチハイクするから、途中の柏まで」という、ツッコミどころ満載な理由ではありません。
金額も5倍のインフレが起こっています。


これって、新パターンの心理実験ではないのだろうか。
僕はそう思って、周囲に他の実験者がいないか、本気で探してしまいました。

しかし、それらしき人はいません。

男性は、僕の反応を待っています。
突然に色々な要素が頭の中を占め、即答ができません。


そういえば。
その「お金をもらう」心理実験の中には、こんなバリエーションがあります。


実験者は、


A コーヒーのいいニオイがする場所
B 何のニオイもしない場所


のそれぞれで、通行人にお金を貸してくれるように頼みました。


この場合、Aのいいニオイがする場所の方が、相手がOKしてくれる率が高かったのです。
こういう、一つのいい気分によって、相手全体に好感度を抱くことを、「連合の法則」と言います。


実際にそのとき、僕はさきほど買ったシュークリームを持っていました。

いいニオイです。



………これは、心理学の神様が、僕に金を渡せと言っているのか。


なんだか、自分の心理というより、ただ実験結果に従っている気がします。
微妙に順番が逆なんじゃないかと思いました。

その瞬間です。
彼はこんな風に言葉を続けたのです。


男性「もしダメなら、松戸までのチケットでもいい」


………。

松戸は柏より上野よりで、運賃は少し下がります。


なんか、これと同じ心理実験もありました。

最初に大きなお願いをしてから、そのあとに小さなお願いをすると、人は「それくらいなら…」と思って、ついOKしてしまうのです。


これを心理学では「ドア・イン・ザ・フェイス」と言いました。

セールスマンの目の前でドアを閉めてしまうと、「ちょっと悪かったな…」という気持ちから、相手に対して歩み寄りの姿勢になってしまうのです。


これは本当に、心理学実験の現場じゃないのか。

僕はそう思いました。

心理学を研究する人間として、無意識に心理学実験の通りに行動しなければいけないと思ったのか。
もしくはシンプルに、この必死な青年にたいする好意の気持ちが湧いたからかは分かりません。


いずれにしても、


ユウ「OK。いいよ」


と言い、柏までの切符を買ってあげました。

すると彼は「サンキュー! サンキュー!」と連発しながら、僕に名刺を渡してくれました。
名刺には、彼の名前と、自分のサイトが書いてありました。


名刺を作るお金があったら、旅費にすれば良いような。
僕はそう思いながら、彼のことを見送りました。


家に帰ってきた後、微妙に気になり、さっそくアクセス。
内容はもちろん英語でしたが、日本語表示されているページもありました。

http://www.peacehiker.com/index.php?lng=jp&id=1


↑そこには、こんな内容が。

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2005年10月11日、東京。

Matej Sedmakという21歳の若者は、2004年7月にリュックサックとギター、そして200ドル足らずのお金を持ってスロベニアの家を後にし、夢に従って世界に旅に出た。


彼はヨーロッパとアメリカ、ラテンアメリカを越え、コスタリカに着くと持っていたものを捨て、小さなリュックサックだけを持って一文無しでPeacehiker(平和の旅人)として旅を続けた。


彼はヒッチハイクで旅をして道で出会った人の家で寝泊まりをした。

旅の初期は食べ物を買うためにストリートミュージシャンやコメディアン、映画館のチケット売り、マイアミビーチでマッサージ師をしてお金を稼いでいた。


コスタリカからはメキシコ、キューバ、再びメキシコへと旅を続け、そして現在東京に『ヒッチハイクで』到着した。


というのも、彼はメキシコで彼の目的を支持してくれる人に出会い、その人が彼のために飛行機のチケットを購入したのだ。


彼は旅と模範を示すことによって平和と健康的なライフスタイルを促進している。彼の夢は、世界が団結して武器や飢餓、不幸せな人がこの世からなくなることだ。
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あひゃん。

すごいですーー!
本当にヒッチハイクで旅をしてるんだーーー!

なんか、猿岩石を思い出しました。古いですけど。


これなら、「お金を全く持ってない」というのも納得ですし、「ヒッチハイクで茨城まで行く」というのも納得です。

………納得しきれないものがありますが、とにかく納得したことに。


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彼は旅と模範を示すことによって平和と健康的なライフスタイルを促進している。

彼の夢は、世界が団結して武器や飢餓、不幸せな人がこの世からなくなることだ。
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お金を持たずにヒッチハイクして旅をすることが、どうして世界の団結や飢餓や不幸をなくすことにつながるのか。

微妙に、分からないことでいっぱいです。


ただまぁ、自分自身はこのできごとで、ほんのりエキサイトな気持ちになったので、不幸が少し消えたことになるのかな、と好意的に解釈を。


実はチケットを買ってあげたあと、帰りながら、
「どうせ柏まで買ってあげたなら、茨城まで買ってあげても同じだったのかなぁ」とも考えました。


茨城に、彼の友達か誰かが住んでいて、そこまで帰りたいだけなのかと。


しかしそれは間違いでした。

彼の旅自体がこういう想定であるのなら、茨城も、おそらく途中通過点に過ぎないはずです。
たとえそこまでのチケットを買ったとしても、決してゴールではありません。

そういう意味で、「柏まで」という彼の計画以上に手を出す必要はなかったんだなぁ、とも。


いつか僕が海外でヒッチハイクをすることがあったら、ぜひこの、心理学的に証明済みのこの方法を試してみたいと思います。


「シュークリームを持っている人間をねらえ」
「いいニオイのする場所を選べ」
「はじめに大きなお願いをして、そのあとに小さな代案を出せ」


あなたも何かあったら、ぜひぜひ思い出してみてくださいね。

そんなことを考えつつ、秋の夜はまた更けていくのでした。


(完)

みなさまここまで遊びに来てくださって、本当にありがとうございました。