早朝。
チェ・ヨンは深い森の中を
歩いていた。
歩けば歩くほどに
頬が、うなじが、腕が、手が、
じわりと滲んでいく。
その艶やかな肌に雫が浮き上がり
つぅぅぅぅぅっと
首筋を流れ出ていくまでの
濃すぎる緑の生気たち。
影薄くなっていくチェ・ヨンを
その者たちが包みこもうと
必死になっている。
そんな蒼の匂いしかない
森の中。
誰もいない
森の中。
チェ・ヨンと
深い樹々と
その者たちが放つ生気しかない
そんな空間。
重たい鎧を身につけたチェ・ヨンは、
その森の中に消え入ろうとしていた。
うつむきながら
その中へ
分け入って行く。
チェ・ヨンの歩もうとする道を
蒼い草たちがすっと避け
チェ・ヨンをその奥へと
導いていく。
「ほら、こちらへ」
まるでそういうかのように。
だが、その男をそこに止めようとする者がいた。
チェ・ヨンの背中をそこに止めるため
射るような強さで
鋭い光を朝日が放つ。
深い森の中へ身を隠すかのように
消えていこうとする
チェ・ヨンを追いかける。
刺す。
その背中を。
そこに止まれと言いながら。
だがやはり、
チェ・ヨンの躰は、
徐々に、まるでその緑たちに
吸い込まれるかのように
透き通っていった。
影のように消えようとするチェ・ヨンを
光が刺し、その輪郭をまた露わにする。
導くものと
止めるもの。
揺れるチェ・ヨン。
だが、前へ進むチェ・ヨン。
弱々しい足取りながら
止まろうとはしない。
後ろへ戻ろうともしない。
前へ、一歩、また一歩、
歩を進めるだけ。
一体どちらを
チェ・ヨンは選ぼうとしているのか。
その男はいったいどこへ
行こうとしているのか。
何を、求めているのか。
歩いて歩いて歩いて。
ようやくここまで進み
その男は、立ち止まった。
瞳をそっと向ける。
足元を流れる
透き通った川の流れに。
端から凍り始めているその川に。
自分の瞳を
その清らかな川の流れに
映し出しながら
自分の心を確かめる。
もう、いいですよね。
いや、まだだめですか。
ここで、やはり
俺は・・・。
いや、やはり。
消えたい。
消えてしまいたい。
俺は
俺も一度は
楽になりたい・・・。
だからいいでしょう?
少しくらい
消えてしまっても。