9月4日。
一年五ヶ月ぶりにリングに帰ってきた。
前の試合は一年遡って4月3日。中村選手に負けた。
強かった。悔しかった。

6月にジムの寮を出た。
三ヶ月ジムに行かなかった。
終わったのかな?でも、終われないかな。
このままじゃ、こんなんじゃ、終われるわけないじゃんか。
嫌いな嫌いな邪魔をしてくる人間なんてガン無視しようと決めた。
間違ってるのがこっちなら直そうと思うけど、絶対間違ってるのはあっち。

ふっきれてジムに戻った。

でも試合は全然決まらなかった。

その間に強い人達とスパーした。
ボクシング人生で初めて尻餅ついた。
でも、その経験でつよくなった。

試合前、渡辺会長が、「久我とやれる4回戦はそうそう居ないよ。久我と比べたらなんでもないから。」
そう言って下さった。その言葉が自信になった。

そして試合。
リングに上がると、皆んなが見えた。誰がどこにいて、あそこに手を振ろう、ガッツポーズしよう!

試合開始。
相手をよく見れた。
ジャブを早く打とう。
あとは無我夢中で何にも覚えてない。
冷静にやってたけど、記憶には無い。
とりあえず相手が倒れてた。
我に返ってリング外にガッツポーズ。
再開したら左ストレートを打とう!
打ってからは覚えてない。
二度目のダウンは右フックで倒したのかなと思ってたが映像見直すと左ストレートだった。

試合終わると皆んなの笑顔。
嬉しかった。
挨拶回ると、知らない人までも声かけて下さった。
また頑張ろうと思った。


自分の試合の三日前に、いつも親身になって話聞いてくださる先輩のタイトルマッチがあった。
先輩は前二試合連敗して、引退も決意していた。
以前出稽古連れてっていただいたときに、試合終わったらまた連れてってやるよ!って言って下さって、でも引退するって言ったときは、もう出稽古連れてってもらえないんだなって。
寂しかった。
もう二度と先輩の車に乗れないのかなって。
もう二度と先輩の雄姿が見れないのかなって。
誰がジムを引っ張っていくんだろう?
誰についていけばいいんだろう?
色んな感情が込み上げてきた。
でも、運が味方してタイトルマッチが決まった。
そして、自分の試合が決まったあと、減量ピークの頃の日程に先輩のタイトルマッチが決まった。
こりゃあ行くしかねーな!

そして迎えた9月1日。
1Rからペースを握った。
イケる!
1Rで既にウルウル来ていた。
2Rで決まる気がしてならなかった。
パンチ効いてるし、相手の減量キツそうだし、先輩の性格なら仕留めに行くと思った。
試合を見ながら、車で話し合った事やこれまでの先輩の苦労が脳裏を駆け巡った。
本当に苦労して、辛い思いして、やっと、ようやく報われるときが来た。
引退しなくて良かった。もう数秒でベルトが手に入る。
レフェリーが割って入った瞬間、涙が溢れ出て来た。
嬉しかった。
幸せになって欲しかった先輩がようやく栄光を手にした瞬間。

そしてそのバトンが三日後試合の自分の元に。
勝ちゃーいいんだろ。
スイッチが入った。

そしてそのバトンはまた繋がった。







前回の自分の試合で、負けた後試合を悪く言う人は周りに居なかった。
何て声かけたらいいんだろう?って気遣ってくれる人ばかりだった。
本当に周りの人達に恵まれてる。
でも、一度辞めようとした。

チケットは一番安くて3000円。
3000円あったら何が買える?
会場に来るのに、帰るのに、交通費がかかる。
仕事休むのに、一日分の給料が削られる。
試合観るときに飲みものや食べ物を買う。
また、帰りが遅くなるから外食する。
一体3000円のチケット代以外にどれだけのお金をかけて見に来てるのか。
それが70枚あったら、70人の生活を動かしたら、自分はいくらのお金を動かした事になるだろう?
それだけのお金がかかっているのに負けたら?
そんな責任取れっこない。

もう二度と皆んなのあんな心配そうな顔見たくない。
どうすれば、、、強くなって勝つしかない。

これが復帰を決めた理由。
ふっきれた。
復帰してふっきれた。
ダジャレかいな。