米雇用統計他経済指標考察、マースク撤退に港湾政策を再検証 | 蓮華 with にゃんこ達

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専ら、マーケットや国内外の政治経済ネタが多くなってしまいました。
母と愛しい我が子達を護りつつ日々闘う中で思う事をアップしていきます。

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http://ameblo.jp/yukiyagi7/entry-12161269361.html

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6月に入ってからの日米株価を見ると、52週高値を試したものの抜けられず、一旦下値を探りに来たアメリカに対して、超閑散相場の中で、基本ズルズルと弱い基調が続く日本、という感じで差がついてますね。

私はバリュー投資の個別銘柄ピックだけなので、それ程関係無いとは言え、年初来のパフォーマンス(ドルベース)の違いにも出ています。

アメリカ雇用統計ですが、やたら悪い悪いと言う人達が多かったですが、イエレンさんも、『いやいや、ちゃんと中身を見てよ。基本positiveな内容だったでしょ。』とスピーチでハッキリ言ってますから。

勿論、今夜の利上げは見送るでしょうけどね。

一番騒がれたのが、非農業部門就労者数(NFP)が前月比3.8万人増、市場予想15.8万人増からの大幅下方サプライズでした。

一つには、既に報じられている通り、大手通信会社Verizonの従業員が4月後半から5月末まで約7週間の大規模ストライキを実施して、労働省の発表によれば、これが雇用者数を3.5万人分押し下げています。よって、この一時要因を足せば、7.3万人になった計算ですね。

さらには、失業率自体は0.3%下がって4.7%、リーマンショック前の2007年11月以来の低水準で、失業者数も前月比48.4万人減、

つまりこれは、労働参加率が62.6%(←62.8%)に下がり、1977年9月以来の最低値、2015年9月の62.4%に近いレベルにまでなっている事が影響している訳です。

アメリカの労働参加率については、以前、拙記事↓にて解説しました。

『月月・日日に強り給へ・すこしもたゆむ心あらば魔たよりをうべし-アメリカ経済全般+ロシア・中国』
http://ameblo.jp/yukiyagi7/entry-12089117443.html

簡単に言うと、一般的な労働参加率は生産年齢人口『20歳~64歳』を対象とし、労働力となる就業者及び失業者の合計を調査しますが、

アメリカの場合は『16歳~上限なし』で労働参加率を計測する、『退職年齢まで』ではなく、『死ぬまで』、よって、人口の高齢化に従って必然的に労働参加率は低下すると言う話です。

現状ではアメリカの65歳以上の割合は右肩上がり、


そして、実際の生産年齢人口(25~64歳)の比率は、1985年レベル程度に下がってきている、


2020年以降は、最初のグラフの通り高齢化も進みますが、労働人口、特に40歳以下の増加率が伸びる時期なので、若年層が増えて状況も変わってくると考えられますね。

ただ、内容的にもそうですが、雇用統計の前、ADPが2日発表、いつも事前の目安となる非農業部門民間就業者数調査では、5月の民間就業者数が前月比17万3千人増で前月より加速していたのです。

中身を見ると、雇用統計で1万5千人減の建設業が、ADPでは1万3千人増、専門ビジネスサービスが前者は1万人増に対して、後者は4万3千人増などと、全ての分野に結構な開きがあります。この辺から推測して、あとから上方修正がかなりある可能性も、と思いますね。

その後の指標も、概ね基調はシッカリな事を示唆しており、例えば、直近6月4日週の新規失業保険申請件数は26.7万件、30万件割れが66週連続で1973年以来最長、年初来のレンジ下限で推移していますし、

FRBが発表した1-3月期家計資産報告では、純資産が88兆870億ドルで、世界同時株安以降の過去最高を更新しており、株式や投資信託が減少する一方で、預金残高が10兆8536億ドルと、過去最高を更新しています。年金資産も順調に増加して同じく過去最高を記録しています。



家計債務の方は、可処分所得に対し105.7%と、前期の106.7%から低下、2007年のピーク、135%から大きく低下していますね。

また、4月貿易統計でも輸出と輸入が揃って増加に転じ、輸出が前月比1.5%増の1827.96億ドル、輸入が2.1%増の2202.32億ドルとなっています。

物の輸出は前月比2.5%増、自動車が6.9%増と前月の7.4%減から反転し、産業財も5.8%増と、同じく前月の2.5%減から7ヵ月ぶりに増加へ転じ、食品飲料も4.5%増と同5.1%減から反転、消費財も1.2%増と6.8%減から反転など、軒並み大きく増加に転じています。

輸入の方は、物が2.4%増で、こちらも前月の5.5%減から反転、過去5ヵ月間で2回目の増加になりました。消費財が1.1%増と前月の11.4%減から大きく反転や、資本財も5.3%増と同じく4.5%減からプラスへ、食品飲料2.1%増と6.9%減から反転など、その他全てマイナスからプラスへの反転となっています。

同じ月の製造業受注も2カ月連続でプラス、コア資本財が上方修正され、一方の製造業在庫は0.1%減と、過去分が下方修正されて減少トレンドを継続、4ヵ月連続で1.37ヵ月と横ばいだったのが1.36ヵ月へ短縮、良い内容です。

年初には製造業を中心に景気循環の谷に突入?、とも言われていましたが、あまり谷らしい谷が無いまま懸念が薄らいだ結果とも言えます。

貿易収支と関係する話題として、日本ではこんなニュース↓が出ていましたね。

『Facebook投稿記事より322-コンテナ海運世界最大手マースクが欧州-日本航路から撤退』
http://ameblo.jp/yukiyagi7/entry-12167732962.html

ちなみに、御付き合いさせて頂いていた港湾荷役会社は、何年か前にNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』で神業のガントリークレーン運転技術を見せていた方が勤務する企業で、実際物凄くカッコイイんです。

世界最大手のコンテナ船企業であるマースクが日本の拠点にしているのは、その横浜港・南本牧埠頭なので、今回の決定は我が地元にとってはかなりショックなニュースでもあります。

余談ですが、ドラッカーが挙げていたイノベーションの中で、コンテナ輸送の話が一番好きだというのは、以前記事にも書きました。

>海運物流の速度競争が激化し、人々が高速船の開発に血道を上げていた時に生まれたアイデア、

船の速度ではなく、全く視点を変えて積んでいる荷物に着目、統一された規格の箱に入れてしまえば、積み下ろし工程も単純になり、設備も整え易い、それまで船、列車、車などの運送手段の違いごとに積み替えていた荷物を、箱の移動だけで済ませる事が出来れば、高速船を開発するよりも、遥かにスピーディに目的地まで運ぶ事が出来る・・・

こうして統一された規格の箱=コンテナの登場は世界の物流を根こそぎ変えてしまった、圧倒的な生産性の向上をもたらした

イノベーションというのは、一見何でもない、そしてシンプルで誰でも真似出来るからこそ、一気に採用されて定着するということが重要で、人々の負荷を軽減し、皆が便益を受けWinWinになれるアイデアこそが凄いのだと。

誰かにしか出来ない特別で独創的なアイデアなどというものは、結局大した価値を生まない>

今回の件にもちょっと関係する話なので再掲しました。単純に日本駄目論でも無いよ、という事です。

つまり、そもそも日本発着で2万TEU超えのコンテナ船なんて、不要に決まっているでしょうと、単価の安い大量の製品を運ぶのに適しているコンテナ貨物のニーズ自体が、既に先進国で軒並み減り、取扱量も大きく落ちている、という流れがあるのですよ、という話。
基本こうした衣料雑貨などを中心とした貨物は中国に集中しています。

そして、日本経由の貨物は殆どがアジア域内で動いていて、アメリカや欧州に向かう物は非常に少ない。SONYだ東芝だ、というメイドインジャパンの製品が欧米を席巻していった昔とは全く違いますから。

この流れの中で、むしろ今重要なのは地方港です。

これは名古屋の成功=中間港としてスキップされない為に、中部圏の産業を強化する事に注力し、それに合わせた港湾インフラの拡充や効率的な物流サービスを整備した、そして今神戸を凌ぐ存在になっている、これに象徴されるように、

まさに地元資源を最大限に活用し、地場産業や地域密着の企業の力で、海外へも積極的に打って出るし、海外から需要を取り込む、という事が、港の運営とセットで肝になってきています。

各地の地域港では、日本主要港を経由せずに釜山経由で欧米航路に貨物を出し、中国からの貨物も釜山経由で地方に入ってきます。基本的にはアジア圏で小回りの効く1万TEU以下の船、メインは1000TEU前後の小型船が行き来している訳です。

そういう時の港湾インフラの在り方、というのも再考すべきな訳です。

以前から、日本はウェイトからすれば、輸出大国などになった事は一度も無いと御伝えしてきました。

そうは言っても、高度経済成長からずっとAuto Pilot Countryとして、産業の裾野も広く、素材・部品~完成品まで付加価値の高い製品を作り出す技術力もあったので、それを輸出して稼ぐ、という事が経済政策の最重要な柱になっていましたし、当然雇用創出能力もありましたが、それも全く変わってしまったのです。

日本のコンテナ埠頭の多くがいまだにバックヤードが狭い輸出対応型で、東京港のコンテナ埠頭周辺のコンテナトレーラー渋滞が問題になっている根本的な原因でもあります。

横浜港も昨年、新たに南本牧埠頭MC-3コンテナターミナルが出来、既存の水深16mより更に深い国内最大の18m、それは世界最大級の大型コンテナ船が接岸できる深さで、大型化する欧州や北米向けのコンテナ船に対応する為だった、という、今回のニュースを受けた今では、あまりに物悲しい話になってしまった訳です。

元々国内最大級のスーパーガントリークレーン6基あった所に、さらに4基、24列9段積みの最大級コンテナ船にも対応出来るようにしたばかり。

結局こうした選択と集中は北米・欧州航路を維持する為の政策ですが、大手コンテナ船会社は、戦略的に自営ターミナルの配置を考え、最も効率の高い形で物流の囲い込みを行っていますから、今回のマースクにとって北東アジアにおける戦略的拠点港は、韓国・釜山新港、光陽港と横浜・南本牧だったけれど、現在の流れの中で、前者だけで十分と判断したのは当然と言えば当然。

今後日本は、アジアのリージョナル・ポートとして、如何に戦略的に稼いでいくか、という前提に於いて、港湾政策のグランドデザインを考えなければならない、それは地域創生にも絡めていけば、むしろチャンスにも成り得る、って、もう結局は日本経済全てに共通する課題に落ち着きますよね。