ROE+補助金拒否の地方創生の御話 | 蓮華 with にゃんこ達

蓮華 with にゃんこ達

専ら、マーケットや国内外の政治経済ネタが多くなってしまいました。
母と愛しい我が子達を護りつつ日々闘う中で思う事をアップしていきます。

さて日本株堅調ですが、これを支えているのが『企業のROEの急激な改善』として取り上げられています。

私は以前から『ROEはザックリ目安にはなるけれど、最終的な投資判断には使えない、あくまでも見るべきは、ROIC(投下資本利益率)』と申し上げています。

ROEはレバレッジの要素が大きくなる、要するに、経営の肝とも言うべきD/E比率、つまり資金調達に於ける有利子負債と株主資本の比率が、その企業が置かれているステージ如何に関わらず、レバレッジを効かせる=有利子負債の比率を高めれば、劇的に高くなってしまうからです。

勿論企業にとって、借金が悪い訳では全くありません。ここは勘違いしてはいけないですね。むしろ資本コストで考えれば、Debtの方が安く、また税効果も得られる訳ですから。

株主還元と同じです。最適D/E比率というのは、行っている事業リスクのステージに応じて、企業価値を最大にする為に選択すべき最も重要な戦略であり、経営の巧拙を評価判断すべきポイントでもあるのです。ROEは、まさにそこを恣意的に調節する事で高く出来てしまうという根本的な問題があります。

そしてもう一つ、当期純利益を使っているROEのレバレッジ効果を大きくする弾力係数が固定費で、これが大きければ大きいほど急激に改善する、まさに固定費型の製造業の業績回復効果が大きく影響し易いという特質があります。

という事は、上述したようにそれが逆回転になった時、今度は『高い株価を正当化している』ROEの急減、という事にもなり得る訳です。

まあ、どういうマーケットになろうとも、企業価値の高い企業を割安水準でジックリ仕込んでいけば、絶対に負けることはありません。

これは『努力は必ず報われる』byたかみな、よりも何百倍も確実な真理であり、自ら証明出来ていると自負しております(^^;)

では少し地方創生の御話を・・。

『石巻中心市街地の再開発白紙 準備組合解散へ』
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201505/20150522_11017.html

小さいニュースですが、これは本当に素晴らしいです。

特に注目すべき意義は何か?

これまで、農産物、酪農、林業、水産業、そして地方、元を辿れば、これら全てを直接間接に壊滅的な状況にしてきた元凶である補助金、今も続いているこの悪弊を、地域住民自らが断ち切る事を選択した、という事、一度走り出した補助金事業をひっくり返すことが如何に難しいかを考え合わせれば、住民の勝利であり快挙です。

何故それ程補助金が悪なのか?
いみじくも記事内の商店主の言葉、『石巻はもともとシャッター街』に表れてますね。震災前ですら人が減っていた、それを震災後、より豪華で大掛かりな規模の物を作って、コストをかけて、身の丈に合いますか?十年一日のごとくの発想、アホちゃうか!
サステイナブルに稼いで利益を上げ続ける、その真っ当な根本から発想する普通のビジネス感覚、これが皆無なのが補助金事業です。

結果として、次々と赤字になり、失敗を埋め合わせる為に自治体予算が投入される、要するに税金を食いつぶすだけの廃墟になる、

それは、その分、本来は自治体がすべき事業、公的扶助や子育て支援などの予算が減り、サービスが劣化することに繋がる、結局雇用機会が減り、負担が増加する、補助金は『砂漠の水まき』で、何の所得再分配にもなっておらず、思考能力を奪う事にも体質改善を阻む事にもなりますが、縛りにもなります。

地方の負担になり、雇用も何も産み出さない稼がないインフラ整備は、地方消滅を加速させるだけです。北九州黒崎市のコムシティ、岡山県津山のアルネ津山、青森県青森市のアウガ、青森県三沢市のスカイプラザ三沢、山梨県甲府市のココリ、秋田県秋田市のエリアなかいち・・・枚挙に暇がありません。

補助金・助成金一切ゼロで『稼ぐインフラ』を過疎の町に作り上げ、大成功を収めているのが有名な岩手県紫波町のオガールですが、

企業経営の肝はD/E比率、つまり資金調達の戦略にある、と申し上げましたが、まさにここで特に見るべきなのも、同じくファイナンス手法です。

完全なボトムアップのインカムアプローチでスキームを作り上げ、SPCが主体になり、中核施設など事業自体から生み出されるキャッシュ・フローを元にした証券化、それに対して、政府系の民間都市開発推進機構と紫波町が合わせて1.5億円を出資、つまり株式として投資していますから、当然配当を支払わねばなりません。

残りの1.5億円は地元の東北銀行から融資を受けています。敢えて市場から調達する、ここが肝です。どのように売り上げて、どのように利益を出して、どのように返済していけるのか、徹底的にプロセスを検証し、実現可能性を追求せねばならない、

だからこそ、ボトムアップ、先に開発構想を広くアナウンスした上で興味を示したテナント候補企業約40社を確認し、キャッシュフローの見込みを付けた後、そこで初めて設計を発注するという手順を踏んだ訳です。最終的に共益費込みで月坪6000円の条件で決定した民間テナントは9件、入居率は100%です。

『安全余裕率』を加味した上で、坪単価のコストが40万円、利回りを17%と計算して、キャッシュフローの裏付けを示しながら、2年近くかけて出資交渉を進めてきたのです。

もう一つ、補助金を拒否したからこそ、素晴らしい成功を収めた事例を御紹介しましょう。

以前から農業の6次産業化が、これもまた補助金のせいで酷い状況になっている、と御伝えしてきましたが、ここは何と94年、20年も前に自助・共助の先進的な取り組みでこれを成功させた企業、高知県四万十町の株式会社・四万十ドラマです。

ここは色々な意味で画期的な企業で、当時地域活性化の切り札として国が推奨した第3セクターの設立、結局各地の自治体で悲惨な結果に終わったのは御存じの通りですが、その中での稀有な成功例である事、

人口3000人程の旧十和村など、四万十川中流域の3町村が出資し、地域農協から引き抜かれた29歳の青年一人だけの社員でスタート、栗、茶、米、椎茸など地域の1次産品を加工して商品化し、全国に販売しましたが、

明確な経営理念『地域に密着し、地域資源を活用する』『外からの支援を受けず、稼ぎを取り込む』『四万十川に負担をかけない環境循環ビジネスを展開し、地元の次世代の人材育成に力を入れる』を掲げ、全国に販売ネットワークを作り、次々ヒット商品を生み出し、年々売り上げが増加していきます。

そして2005年4月には、地域住民が株主となる完全民営化を果たしたのですね。その後も加工場を地元に設置したり、道の駅の運営に乗り出したり、グループ会社を7社に増やし、地域中核企業になりました。

最初の補助金ですが、これを受けないという事だけではありません。以前当ブログでも何度か林業について記事を書いていますが、そもそも論として、林業も戦後から続いた行政の迷走で最も価値を毀損されてきた歴史を持つ業界ですが、何と言っても元凶は、昭和20~30年代、戦後復興等で木材需要が急増した一方、戦争中の乱伐や自然災害等の理由で供給が十分に追いつかず、木材が不足し高騰を続けていた為、手厚い補助金の支給で行った「拡大造林政策」、

残っていた広葉樹の天然林、或いは里山の雑木林などを伐採し、跡地や原野をスギやヒノキ、カラマツ、アカマツなど成長が比較的早く、経済的に価値の高い針葉樹の人工林に置き換えていった事です。

この大号令に殆どの山村が飛びつく中、旧十和村は国策に従わず、広葉樹林を守り通したのです。当時の地域の森林組合長が、『山の複合経営を維持すべき』と住民を説得したのですね。

その結果、旧十和村の山林の約6割が広葉樹で、栗や茶、椎茸など様々な複合経営が可能となったのです。これが四万十ドラマ成功の基礎なのです。

利権団体で補助金を最も享受していると悪評高い地域農協や森林組合が、地域第一に賢明な判断やリーダーシップを取ってきたからこその成功、というのも、非常に素晴らしいですよね。農協改革でこうした独自の取組みや判断が出来る地域農協が増えていく事も、大いに期待したい所です。