仏法と申すは勝負をさきとし、王法と申すは賞罰を本とせりー地方再生の要諦、地域医療をメインに検証 | 蓮華 with にゃんこ達

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専ら、マーケットや国内外の政治経済ネタが多くなってしまいました。
母と愛しい我が子達を護りつつ日々闘う中で思う事をアップしていきます。

皆様、新年あけましておめでとうございます・・・既に7日でご挨拶というのも間が抜けておりますが、取り敢えず第一弾なので。

さて直近で地域医療関連のニュースが出ていましたが、特に少子高齢化も地方の過疎化も深刻化する中で、地方病院の診療科が縮小するとか、病院自体が破綻する、という話は枚挙に暇が無い訳です。

敢えて言うまでもない事ですが、地方再生に於いて、稼ぐ=雇用を作る事と同じく、基礎インフラ整備は、安心して家庭を持って暮らしていく上で欠かせません。

こうした中でも、地方の公立病院で経営改善に成功している事例は、ちゃんとある訳で、その一つが、被災地である岩手県一関市の国保藤沢町民病院です。

この病院は、山間僻地にある人口9000人弱の小さな町ながら、医師不足とも無縁、一般的には収入減に繋がるとされる「外来と入院患者を増やさない」方針を掲げ、住民と寄り添う地域医療の実践で、設備投資がかさんだ開院(1993年)2年目以外、一貫して黒字経営を維持しています。

診療科は、内科、小児科、外科、整形外科の4科です。予防医療の健康増進外来、禁煙専門外来も行い、約10年前から老人ホームなどを含む7事業に地方公営企業法を全部適用し、病院長が管理者を務めています。

例えば 開院から続けている訪問診療、退院した患者を対象に1日あたり5~6軒訪問しますが、医師、看護師、運転手が必要な極めて非効率に思われる在宅医療が、実は黒字要因の一つなのです。

訪問診療そのものも、在宅患者訪問診療料や在宅時医学総合管理料による処方箋、それに重症加算や注射等処置の別途加算などを計算すると、意外にも結構割に合う収入になる事が分かりますが、

それより重要な点は、入院が長期に及ぶと診療報酬が下がる現在の医療制度の下で、利益に繋がる新規入院を増やすには、一定の空きベッドがなくてはならず、病床利用率80%位が理想で、その為、入院患者に対しては、早期在宅医療への切り替えが必要という事です。

そこで、患者が安心して自宅に帰れるような体制作りをしている訳ですね。他にも退院時に家の改修助言やヘルパーとの協力など福祉と連携した包括医療に力を注いでいます。

開院3年目から始めたナイトスクールは、院長らが地域に出向き、理想の病院像を住民と考える会合です。

外来についても通説とは逆に、数が多過ぎればジックリ診察出来ず、診療報酬の高い複雑な治療が出来ない為、結果的に病院は儲からない、という判断からスタートした試みで、加えて、安易な夜間診療はマナー違反など住民に丁寧に説明した結果、1日300人だった外来が半減し、時間外も30人から4~5人に減ったそうです。

患者のニーズにただひたすら応え、何でもかんでも言われる通りの受け身ではなく(これ、日本的経営の問題だと思います)、身の丈のリソースを見極めながら、住民を巻き込み、説得して望ましい姿に導いていく、という事も重要なのです。

この54床の町民病院に必要な医師数は6人ですが、現在常勤医は5人、非常勤や宿直応援など10人の医師が加わり、充足率100%を維持しています。これは地域医療の実践が、実は医師不足の解決策にもなっているという結果なのです。

常勤医や応援医師の大半は研修や派遣による町民病院の勤務経験者で、他府県で子育てしながら、訪問診療の応援に通う女医の方もいらっしゃいます。

その大半が、患者に合った医療を提供する地域医療の原点を学んだ病院、そして絆が出来た住民に育てて貰った恩返しがしたい、と言って戻って来ているそうですが、これにも布石があり、ナイトスクール同様、まさに「地域住民を巻き込む」5年前から始まった試み、研修医の報告会を公開の意見交換会に変えた事が大きいのです。

この医師の卵の成長を見て貰う取り組みが、住民意識を変えるきっかけにもなり、住民側から「藤沢に戻って貰う為には、何が障害になるか」などの質問が出る場になっており、

「若い医師を育てる意識が住民に芽生え、地域に育てられた医師が戻ってくる」「地域に合った特徴的な医療の実践が、経営安定にも医師のやりがいにもつながる。全ての医師が東大病院や聖路加国際病院など東京の有名病院勤務を目指している訳ではない」というのが、院長の弁です。

経営改善を成し遂げている病院には、他にも秋田県横手市の市立大森病院などがあり、地域包括医療の理念、在宅、老人医療、介護の分野も含めたプライマリケアの実践を掲げ、公的地域サービスと密接に連動した夕暮れ診療などで効果を挙げています。

また、沖縄県の那覇市立病院などのように独立行政法人化で成功した所もありますね。ここは独法化後、医療スタッフの大幅な増員で診療報酬加算を取得したことが奏功、医師、看護師の非正規職員の正規職員化を進めながら、人件費率は50%前後を維持しているそうです。

独立行政法人化のメリットとしては、国家公務員法の適用を受けない為、独自に職員を採用することが可能となり、より優秀な医師、看護師などの確保に繋がる、職員へのインセンティブや優秀な人材確保の為の手当等の創設が可能となる、人員確保で診療報酬に於いて上位の施設基準を取得出来る、などの他に、産業界からの資金や共同研究のルートも作り易くなります。

一方デメリットとしては、雇用保険法に基づく事業主負担額の増加や減価償却費の発生、退職給付や貸倒の引当金繰入増加などが挙げられますが、これは経営という観点からは当たり前の話であり、要するに、これまで全て見てきた通り、民間企業と同じアプローチ、地方再生の要諦に則ったボトムアップの徹底した改善、こそがポイントなのですね。

医師も財源も不足している中での医療インフラの整備については、

高齢者は見守り機能も兼ね、ITを活用した遠隔医療体制を整備する、重症及び救急には、40~50km圏内の基幹病院からのドクターヘリで対応する、

などの提案も、以前当ブログに書きました。

日本のドクターヘリは、現時点で全国36ヵ所に43機しか無いのに対して、ほぼ同じ面積のドイツには80拠点、日本の面積の約9分の1のスイスには13拠点に配備されているそうですから、少なくとも80~100機程度に増やすべきですね。

大体50km圏内を10~15分で行けるそうなので、年間コスト2億円をその医療圏の自治体で共同出資して基幹病院と連携すれば、1機当たり年間500人強の対応が可能です。
補助金や助成金も、そうした所に入れるべきだと思います。