長期的価値を買いたい時、不確実性は貴方の真の味方となる by Buffett | 蓮華 with にゃんこ達

蓮華 with にゃんこ達

専ら、マーケットや国内外の政治経済ネタが多くなってしまいました。
母と愛しい我が子達を護りつつ日々闘う中で思う事をアップしていきます。

欧州の失業について、以前の記事(@『パリより江戸の方が粋でカッコ良いですよん♪』)にグラフを添付して書いた中で、

特に若年層(25歳以下)に関して、現在、住宅バブル崩壊の影響から、把握し切れない程の大手銀行の不良債権や、地方政府の(+さらに日本も含む海外の金融機関の)債務が膨大になっていて、正に惨憺たる状態のスペインやギリシャでは、50%を越えている=2人に1人は無職(!)というとんでもない酷さですよ、と説明した訳ですが・・・。

米国でも、2012年 の大学卒業者の2人に1人は仕事がない、パートタイム労働となっていると報じられており、大学卒業の若者でも、レストランのウェイター、バーテンダー、小売店のレジ従業員など低賃金労働者が激増しているそうです。
同時に、所得に対する学生ローンの割合も、当然ながら急増してます。

ニューズウィークにも、米国の労働力の多く(おそらく4分の1程度)は今、全く働いていないか、食べていくのにぎりぎりの稼ぎしかない人で占められる、という記事がありましたが、周知の通り、現在の雇用問題は景気循環の問題では無く(勿論景気が悪くなれば失業は増えますが)、以前のように景気さえ好転すれば失業も解消する訳ではありませんよね。

そんなこんなで憂鬱な世界経済です。

ところで、投資に於ける経営分析、企業評価をする際に、盛んに取り挙げられ、批評されるのが、経営者の資質、と、現場力、ですよね。

今回の電機セクター大不振、についても、頻繁に批判されたり、経営者交代のニュースが当該企業のターニングポイントになるかのような語られ方をしたり・・・

勿論、以前から書いてきた通り、経営者の戦略策定能力が、組織のパフォーマンスに与える影響は少なくないですが、企業の業績が専ら、社長個人の資質で決まるなどと言う事はあり得ない・・・

というか、影響度は、
その企業が置かれている『ステージ』と、
そして『サイズ』=統計的に300人以上になると組織の質量転化の臨界点がある、
とされていますが、要は経営者個人が全てを見渡し、取り仕切る事が出来る大きさかどうか、によって、全く異なります。

5年前からフォローしてきた会社にSHOEI(7839)というプレミアムヘルメットのメーカーがあります。

前身の昭栄加工が92年に会社更生法の申請を行った後、三菱商事から出向した管財人の山田勝氏が代表取締役に就任して、業界唯一のトヨタ生産方式を導入するなどの、徹底したあらゆる改革を行い、同時に完全国内生産によるブラックボックス化で構造・機能部分に多くの特許を有する高いFRP成型・加工技術&品質を獲得し、特に多品種少量、国内外で3000品目以上の高級品が、欧州中心にフル稼働状態でも消化し切れない程の需要を得る位に見事に再生し、変貌を遂げていた企業です。

事実上つぶれた会社で、山田社長を中心に、山のような在庫を1個千円で全て売り飛ばす、工場・事務所の不要物を徹底して廃棄処分、などの赤札作戦を徹底実行し、とにかく空きスペースを作る、仕掛品を4分の1に縮小する、

トヨタ生産方式=ムダ取り・生産改善OR革新を日中自由にやる、直ぐやる、棚・作業台など可能な限り自作で、全従業員が溶接なども行う・・・などなど、実際に社員が一丸となって建て直しをやってきた中で、

高い限界利益率(当時約45%)と在庫回転率(8.6)など高水準の経営効率を実現し、業界世界No.1にまでなっていたので、特に人格的にも能力的にも素晴らしい山田氏の求心力が、強固且つ圧倒的でしたね。

運用行動としては、1年強保有した後、この企業から一旦離れたのですが、それは工場視察に行った時、初めて入ったデザインルームのデザイナー達が、会社の方針や方向性に少なからぬ疑問や不満を持っている事が(勿論ハッキリと口にはしませんが)、凄く感じられたんですよ。

この企業を何度も訪問し、各部署の従業員に何度も会ったり話しを聞いたりしていましたが、初めての事でした。正に『全てを見渡し、取り仕切る事が出来る』ステージ&サイズから、組織が変容している事を明確に感じさせました。

勿論、その後の不振は、海外売上比率80%、特に欧米で高級ブランド(当時で7万円~10万円前後)としてブランド・地位を築いてきた企業ですから、ユーロ危機の影響をモロに甚大に受けたのが大きかった訳ですが、当時既に発表済みだったトップ交代もあった中で、こういった組織の質量転化、求心力の低下、という面も少なからずあっただろうと思いますね。

ちなみに、求心力を英訳する場合、直訳的だとcentripetal forceだけど、キチンと意味を汲んだ言葉は、integrative passionだ、と優秀な通訳者が言ってましたが、その通りだと思う。

もう一つのキーワード、現場力。
上記のように、特に私は経営者や関係者に直接会う、現場を必ず見る、というのを投資の基本・必須条件にしてきました。そして、実際このSHOEIの例のように、現場で企業の変化を感じ取る事も多々ある訳です。

例えば、上記で触れたトヨタ生産方式。現場の組立工程で、レイアウトを工夫して動線を短くすれば、たった数秒の作業時間のムダとりでも、年に数十万個を扱う場合、数十時間分の労賃の原価削減になります。

こうゆうミクロな努力の積み重ねこそが、製造業の業績を左右する訳ですね。正に、お金は現場に落ちている。

現地現物を見て考える。これが現場主義の信条です。

製造原価を数%でも下げる事が出来る、これはとても大きいのです。
特に成熟産業間では、同業他社と何割も価格が違う事はあり得ず、僅かなマージンを取るかどうかで、受注に物凄い影響が出ます。そして受注量が変われば、当然採算点も変わるのです。

但し、トヨタ生産方式導入が全てOKという事は絶対に間違いで、個別各社の営業~物流に至る流れ、企業内の機能の連鎖、に対する整合性、前提とされるリソースや技術との相性、こうした全体のシステムと嚙み合うかどうか、弾力性はあるのか、という根本的な検討要素を無視しては無意味ですね。

こういうマネジメントの巧拙は現場だけを見ても分からないし、加えて現場改善だけが業績の鍵、という単純な見方は出来ない訳です。
ですから、現場の設計思想が企業全体のシステムをどういう風に支え、価値を生み出す物になっているか、を丁寧に見なければなりませんよね。

ことほど左様に企業経営は深いですなあ。
正に、そこにこそ投資家としての分析の醍醐味があるし、良い、価値のある個別企業を見つけ出す事のワクワクする楽しさがあるんですよね~!

蓮華 with にゃんこ達
蓮華 with にゃんこ達