「この業界で生き残ってるやつなんて、誰も人を信用しない。人を疑うことしか知らず、たまに優しい顔を見せりゃ、金だの権利だの、かすめ取ろうとする奴らばっかだ」
「マジで、白井さんって人は最悪ですね」
「いや、みちあき、俺も同じだよ」
「え?」
「俺だってそうさ。この世で信用できるものは『金』だけだって思ってる。だから俺も生き伸びてこれてんだ。ここじゃ、先に情を見せたほうが負けるんだよ」
「確かに・・・俺も最近、身に染みてるな」
「なぜだかわかるか?」
「え?」
「なぜ、この世界の奴らは、人を信用できないかわかるか?」
俺は及川の質問に、反応できず、小さく首を横に振った
「小心者だからだよ。俺もそう、白井さんもそう・・・。ここで生きてる奴らはみんなそうだ。気が小さいから、人を疑う。そして、自分を強く見せたがる・・」
「俺は、及川さんは違うと思うけどな」
そう答えると、「わかっちゃいないなぁ」と、今度は及川が首を振り、「気が小さくて用心深いから、白井さんも俺も、生き残ってんだよ・・」と続けた
確かに、及川にそういう一面があるのは、わかってる
初めて出会った頃の及川なんて、猜疑心が服を着て歩いているようだった
でも、あきねの母親の命を救った及川も知っている
俺のことを友だちだと、言ってくれた及川も知っている
「なぁ、みちあき」
「はい?」
「俺は、お前が今日、なにをいいにきたか、だいたいわかってるつもりだ」
「・・・はい」
きっと、ゆうきさんが、それなりに伝えてくれたんだろう
「だからな。今日が最後になるかもしれないからな・・」
珍しく及川が、言葉を止めて、小さく息を吸い込んだ
そして、しっかり俺の目を見て言った
「だから、今日は、俺がどういう人間か、ちゃんとお前に伝えようと思ってな」
「え? 俺は及川さんのこと、結構わかったつもりになってたんですけど・・・」
「いや、まだお前は、全然、わかっちゃいねぇよ」
「・・・・・」
「だから、今から俺が、それを教えてやる。お前が片足突っ込んだこの世界がどんなところで、そして俺がどんな人間か教えてやるよ」
そう言った及川は、今まで見たことのない顔をしていた
それは、俺が初めて見た、及川の「素」だったのかもしれない
「ゆうきは、俺の女だ・・」
「え?」
「ゆうきは、最初から俺の女なんだよ・・」
「最初からって、いつから?」
「お前や瀧がゆうきと出会う、ずっと前からだ」
[はじめから]
[登場人物]