上手に整理をつけられない心とは裏腹に、成績だけは、さらに上がっていった
なにも考えなくていい時間
唯一それが、受験勉強だったからかもしれない
そして、2月23日、ついに受験の日を迎えた
俺は、電車での移動を避け、タクシーで外苑高校に向かっていた
携帯にメールが入る
三田からだった
[また、一緒に仕事できるの、楽しみにしてるから。がんばれ]
さらに広瀬からもメールが来た
[必勝!]
その後、事務所の仲間から、立て続けにメールが入った
すべて、今日の俺を励ます内容だった
1通、1通、目を通す度、胸が熱くなった
受験前に感情的にもなっても、まずいよな
そう思ったけど、立て続けに入るメールに、抑えきれないものがあった
俺はホントに弱くなったんだろうか
気が付けば、また泣いている
「お客さん、大丈夫?」
心配したのか、タクシーの運転手が声をかけてくる
「今日、受験なんですよ。みんなから応援のメールもらって、感動しちゃってました」
俺は少し照れながら、正直に答えた
「お~、それなら、がんばらなきゃな」
「はい」
外苑高校に着いて、タクシーを降りると、またメールが入った
及川だ・・
[焦らず、しっかりな]
及川にしちゃ、随分あっさりした内容だな
少し心に余裕ができている自分に気が付いた
俺は、人目もはばからず、大きく背伸びをした
「よし、行くか!」
大きく声に出して、そう言ってみた
周りにいた女子学生が、そんな俺を見ながらくすくす笑っている
「みちあき~」
校門に入ろうとしたとき、誰かが俺を呼ぶ声がした
遠くから、俺を呼んでいるのか、やっと聞こえるくらいの小さな声だった
俺は、思わず辺りを見回した
声の先に、遠く人影が見えた
表情が確認できないくらい離れた距離だったけど、俺にはそれが誰かすぐにわかった
小さな人影が、大きく手を振っている
俺は心のなかで、呟いた
(あきね・・ありがとう)
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