俺は少し考え込んだ
及川はいつになく真剣だ
おそらく、俺に問うことで、今までの自分を本気で見つめ直そうとしてる
安易には答えられないと思った
「及川さん」
「ん?」
「俺、思うんですけどね。なんだかんだ言ったって、みんな金は好きじゃないですか」
「まぁ、そうだな」
「及川さんと一緒にいて、自分にも金が入ってくるなら、人は『結局、金のためじゃん』とは言わないと思うんですよ」
「そうなのか?」
「『結局、金のためじゃん』ってのは、いわゆる捨てゼリフかなって」
「捨てゼリフ?」
「本音は、俺も金ほしい、だと思うんですけどね」
「そういうもんなのか?」
確かにさっき、及川が言った通りかもしれない
俺は、及川があまりに人の心がわからないことに、驚き始めていた
「ちなみになんですけど。及川さんはそいつらに、ちゃんと金を渡すようにしていたんですか?」
「もちろんだ」
及川の自信たっぷりの返事が、逆に不安になった
「どんなふうに?」
「最初はな、ゼロから出会いサイト立ち上げたんだ。サクラやってた何人かで、金出し合ってさ」
「なるほど」
「あとは、普通にみんなでサクラやって、成績に応じて金分配してたんだけどな」
「おかしいな。それじゃ、なんの問題も起きないはずなんだけどな」
「そうだろ?」
「及川さんだけ、余分に金、受け取ったりしなかったんですか?」
「してねぇよ。あえて言うならシステム費くらいだ」
「システム費って?」
「出会いサイトのシステムは、俺がひとりで全部組み上げたんだ。だからその金はもらってたぜ」
「どのくらい?」
「店の売上の6割だ」
「は?」
「だから、6割だ」
「なんで?」
不安そうな顔をする俺を尻目に、及川はまた鞄から電卓を取り出した
「なんでってお前、そりゃ正当なんだぜ。まずそのシステム組むのにかかった俺の人件費がこうだろ?それとこのシステムの一般的な相場はこんくらい・・」
その後、長々と及川の説明が続いた
電卓を叩く及川の手つきに、妙な嫌悪感を感じている自分に気がついた
[次の話]
[はじめから]
[登場人物]