「みちあき、全然寝てないの?」
昼過ぎ、あきねが目を覚まして話しかけてきた
「ううん、向こうの父親の寝室で、少し寝たよ」
「そうなんだ」
「大丈夫、今日は学校はばっくれるって決めたし、バイトは休みだから」
「嬉しい~、あたしも今日、バイト休みだよ」
あきねは起き上がって、俺を見て微笑んだ
泣いたせいで、心なしか目が腫れている
「じゃ、今日はふたりでゆっくり過ごそうぜ」
「うん。ねぇ、みちあき、ちょっとこっち来てよ」
「ん?どうしたの?」
「だ、抱きしめてほしい」
あきねが照れたように言う
俺はあきねの横に行って、ゆっくりその身体を抱きしめた
「昨夜のこと、全部嘘じゃないんだよね」
「もちろん」
「な、なんかさぁ・・」
「なに?」
「夢みたい」
「夢じゃないよ」
「あたし、生きてきてよかったな。あきらめないでよかった」
そう言って、またあきねが涙ぐむ
「もう、そろそろ泣くのやめろよ」
さすがに呆れて、思わずそんな言葉が出た
「ごめんね。まだ、ちょっと無理かも。でも少しずつ泣かないようにしていくから」
「うん」
「ね、みちあき。トイレ行きたい」
「あぁ、こっちだよ。おいで」
俺はあきねの手を引いて、リビングへと向かった
「うわぁ、昨夜は動揺してて気付かなかったけど、随分豪華なマンションだね。あたしとは住む世界が違うよ」
「まぁ、一応ファミリー向けだからね」
「そういえば、みちあき家族は?」
そっか、まだあきねには自分のこと、ろくに話してなかったよな
「ほら、トイレあそこだから。出て来たら、俺のことも聞いてくれよ」
「うん」
家族のこと
でも、ゆいさんや及川に話したときのように、暗い気分にはならなかった
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