「来た来た」
ファミレスであきねの目の前に、かきあげうどんとまぐろ丼のセットメニューが並んだ
「結構、食べるんだね」
「うん、だっておなかすいたもん」
「さっき、ちょっとって言わなかったっけ?」
「ここまで歩いてくる間におなかすいたの!」
「そうなんだ」
俺が可笑しくなって、くすくす笑うと、あきねも照れたように笑った
(あれ?少し反応が変わったな。素直に笑い返すようになってる・・)
そんなあきねの小さな変化が、かわいくてたまらなかった
食事が済んで壁の時計を見ると、もう夜中の1時を回っていた
「みちあき、明日学校大丈夫なの?」
「明日はばっくれる」
「大丈夫?受験生なんでしょ?」
「いい、俺が決めたからいいんだ。今の俺にこの時間より大切な時間はない!」
そう言うと、あきねが少し心配そうな顔をした
「言っとくけど、あたしたち、ただの友だちだからね」
「はいはい」
俺はわざと、仕方ないな~、という感じでおどけてみせた
「でもホントは、俺あきねにすっげ~感謝してる」
「なんで?」
「前に事務所であきねに『元気ないね』って言われたじゃん?」
「う、うん」
「格好悪い話だけど、俺フラれたばっかで」
「そ、そうなんだ・・・」
「でも、あきねの歌聴いて、一気に元気になった・・」
「・・・」
そう言うとあきねは、うれしそうに笑っていた
でもしばらくして、なにか思い返したように俺を睨んでくる
「お前さぁ、次から次へと女、取っ換えてんじゃね~の?」
「それは違うんだな」
「そうなの?」
「うん、俺はその人が初めて。生まれて初めて好きになった人」
「そ、そうなんだ」
「すごく心の優しい人で、大好きだったんだ。でも、今振り返ると恋愛感情じゃなかったのかもしれない・・」
「なんで?」
「好きって、どういうことか、やっとわかった気がするから」
俺はそう言って、あきねの目を見つめた
「あ、あの、何度も聞いて悪いんだけど。そ、その、あたしたち友だちだよね?」
「うん、そうだよ」
「そ、それならいいんだけど・・」
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