「あのさ~」
早川さんが、なにか言いたそうな顔をしている
「どうしたの?」
「これから、ちょっと時間ある?」
「まぁ、今日は帰ってDVD見るつもりだったから、時間は別にいいけど」
俺がそう言うと、早川さんがうれしそうな顔で言った
「じゃ、ちょっとそこのカフェにでもつきあってくんない?」
「なんで?」
「もう1曲聴いてほしいんだよ」
「ここじゃダメなの?」
「うん、ちょっと感想とかもきかせてほしいからさ」
「うん、いいよ。じゃ、そこのスタバ入る?」
「もうちょっと静かな店がいいんだ。ちょっとあたしについて来てよ」
そう言って、早川さんが俺の手首を掴んで歩き出した
古い雑居ビルが立ち並ぶ一角に、古い喫茶店があった
ガランとした店内には、客が数名いるだけだ
「また随分、年季の入った店ですね」
俺がそう言うと、早川さんが笑いながら言った
「そうだね~、明日潰れてもおかしくないような店なんだけど、なぜか潰れないんだよ」
店の片隅の席に座ると、また早川さんが、ヘッドホンを差し出す
「この曲なんだ・・」
早川さんがそう言った瞬間、耳から優しい音楽が流れてきた
明るい夏の陽射しを感じるような・・そんな曲
やがて、伸びのある女性ボーカルの声が聴こえてきた
(あ、あれ?日本語だ・・)
歌詞は日本語だった
[あの空の向こうに、あの空の向こうに]
それがサビだった
ホントに空の向こうに、心が突き抜けていくような気がした
「ね、どうだった?」
曲が終わって、早川さんがそう尋ねた
「うん、すごいいい曲、マジで感動した」
「誰が歌ってるかわかった?」
早川さんが上目使いで俺を見る
「え?えー!」
そっか、この歌声は早川さんなんだ
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