「あのさぁ、やよい」
「なに?」
「まだ受験まで1年あるんだぜ」
「うん」
「夏までにしっかり成績上げて、それで親をもう一度説得すればよくない?」
「でも、もうすぐ進路相談あるし。先生にちゃんと外苑高校を受験するって言いたいんだもん」
やよいはそう言うと、少し不機嫌そうな顔をした
(やれやれ)
「ちょっとあたしがなにか言うと、家にはお金がないからって、最近そればっかりなの」
(なんか色々たまってっぽいな~。しばらく、やよいの好きなように話させたほうがよさそうだな)
「離婚したのはあたしのせいじゃないじゃん。親の勝手な都合じゃん」
「そうだな」
「なのに、まるであたしが悪いみたいな、そんな言い方すんだよ、あの親」
「そっか」
「あたしだって・・・あたしだって、不安だよ。マジ落ちるかもしんないし。でも、いっぱい考えて、やっと決心して決めたんだよ」
やよいはそこまで言うと、ぽろぽろと涙をこぼし始めた
「それに、それに・・・」
「うん」
「あたし、みちあき好きなんだよ。高校で離れ離れになるのイヤなんだもん」
「・・・」
「みちあきが大変だったのは、わかってるの。でも、あたし、寂しかったんだよ、寂しかったんだもん」
やよいの気持ちもわからないわけじゃなかった
「みちあき、側に来てよ。また、前みたいに抱きしめてよ」
俺は言われるがままに、やよいの横に座って、そっと肩を抱きしめた
やよいが俺に身体をあずけてくる
そのままふたりソファに横になった
やよいが俺の身体に手を回し、子供みたいにしがみついてくる
俺がそれに呼応するように抱きしめると、やよいの泣き声が大きくなった
(そうだよな、やよいも寂しかったんだよな・・)
気が付くと、やよいの髪を静かに撫でていた
寂しくて、何度もゆいさんのメールを読み返していたあの日
あの日の自分の寂しさを思い出した
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