日本昔話「浦島太郎」で乙姫が玉手箱を渡した本当の理由

日本人なら一度は聞いたことがあるであろう日本昔話「浦島太郎」。

urashima

~あらすじ~
助けた亀に連れられて海底の竜宮城へ行き3年間を過ごすが、浜に帰ると既に300年が経っており、お土産にもらった玉手箱を開けると一気に老人になってしまう。

一般的な物語に出てくるキャラクターは次のとおり。

浦島太郎

彼は

心優しい青年

貧乏なのに「おむすび」や「お金」を渡すことで亀を助ける。そして、故郷の事も忘れない家族思いな一面も持っている。ところが、その優しさによって、

拉致され3年間監禁され最後は老人にさせられる

今回の物語の事件の被害者です。

乙姫

この女は最悪です。自分の身内を助けてくれた恩人を、鯛や平目の舞い踊りやご馳走で饗しているように見せかけて、実はそれによって時間を忘れさせるという極めて巧妙な手口を使って、何の罪もない青年を長期間滞在させるように誘導、しかも、長期間滞在してしまうと、陸の世界と時間の進み方が違うため、戻った時には、知り合いが誰も生き残ってないという

デメリットがあるにも関わらず、竜宮城の全員で隠蔽 有害物質が含まれた煙が噴射する箱を、何の説明もないまま渡し老人にさせるという、今回の物語で計画的な犯行を行う事件の加害者です。

青年は大切な「おむすび」や「お金」を出して亀を助けたにも関わらず、命の恩人の優しさにつけこみ「お礼がしたい」等と言葉巧みに誘い出し青年を見殺しにしました。亀は、今回の事件の共犯者

この話は一体何が言いたいのか?

強いて言うなら、

確かに、そういう戒めで終わる昔話もある。

が、

罪と罰のバランスが悪すぎるではないのか?

他に、指摘する事があるとすれば、

確かに乙姫は

「開けてはいけません」

と忠告をした。

が、ちょっと待て。

開けてはいけないものを、なぜ渡したのか?

そして、あいつらは

人を有害な煙で老人にするような2人組

である。

たとえ、青年が自ら開けなくても、巧妙な他の手口で青年に有害な煙を浴びさせる準備はしていたに違いない。

なぜなら、これは浜辺で亀がいじめられている時から、

反抗的計画は始まっていた

のだから。

この話を聞いて人は何を教訓にすれば良いのだろうか?

  • 知らない人から物を貰ってはいけない
  • 知らない人について行ってはいけない
  • 知らない人の誘いにのってはいけない

なのか?

それとも、

他人が傷ついていても無視すること
→ 助けると自分が被害を被る

という戒めなのか?

原作ではどうなっているのか?

ここから少し掘り下げてみる。

浦島の物語は多くの文献に掲載されている。

  • 日本書紀(作者:続守言)
  • 丹後国風土記
  • 万葉集(作者:高橋虫麻呂)

※風土記・・・713年に郡(県)名の由来・伝承・産物・土地の状態などを各国庁がまとめた書物のことで、平安時代から風土記と呼ばれる
※日本書紀・・・中国の歴史書にならって「日本書」を目指した日本最古の歴史書
※万葉集・・・奈良時代末期に成立した和歌集

これらの資料をベースに室町時代の「御伽草子」にある「浦島太郎伝説」によって、

「乙姫」「亀」「玉手箱」「竜宮城」など現在のストーリが成立した。

室町時代の「浦島太郎伝説」は、

最後、白髪になった浦島太郎が鶴に化け、亀姫と結ばれる

という話。

竜宮城での生活で700年の時が流れてしまった。鶴になることで1000年の寿命となり、残りの300年の人生を乙姫(亀:万年)と過ごした。

完全な後付け設定室町時代時代の著者も、「この話のオチが無い」と思って、追加したに違いない。最も古い書物「丹後国風土記」の内容は、次のとおり。

  • 男性(浦嶋子)が亀に会う
  • 亀が女性(仙女名:亀比売)に化する
  • 仙界(常世の国)に行く
  • 仙女と恋におちる(妻とする)
  • 3年の月日が流れる
  • 青年が故郷に戻りたいという(生まれ故郷に戻り禁(タブー)を犯す)
  • 女性が箱(玉匣(たまくしげ))を渡す
  • 故郷に戻ると300年の時間が過ぎていた
  • 青年が箱を開けてしまう
  • 白髪となり、女性の元を離れたことを後悔する
  • 互いに会えない事に対して句を歌う

「玉手箱」は浦島が仙女との愛を裏切り地上の娘と結婚しようとした時の復讐の手段

と、考えることは可能。ただし、浦島太郎が俗世間に去った際に、仙女は次の句を歌ってる。

大和べに風吹きあげて雲離れ退き居りともよ吾を忘らすな【意味】大和の辺りに風が吹いて雲が離れ離れになるように、たとえ私とあなたが隔たっていようとも、どうぞ私を忘れないでくださいね。

決して、嫉妬心に狂った女性ではない。

浦島太郎は、「この箱を開けてはならない」ということは十分に理解していた。開けてはいけない・・・でも開けてしまった。だから、仙女(乙姫)は私のもとから離れるぐらいなら殺してやると考えてしまうような、懐の狭い女ではない。

【万葉集では正しい】300年の浦島太郎自身の老いが入っている

仙女は浦島太郎が地上へ戻っても、年を取らないよう「玉手箱」に力を封じ込めていた。という説。勿論、300年分の老いが入っているなら箱を開けた瞬間に白骨化してしまう。

そこは、万葉集(万葉集九巻1740)では、肌も皺みぬ 黒くありし 髪も白けぬ ゆなゆなは 息さへ絶えて 後つひに 命死にける浦島の子は白髪の老人の様になり、ついには息絶えてしまった。と、記載がある。少なくとも「万葉集」では、この解釈は可能。ただし『日本書紀』や『万葉集』にもさかのぼる本当の原点である「丹後国風土記」では白髪になっても生きている。

【浦島太郎伝説では正しい】人間の体を捨て去り、仙人になるため

浦島太郎は鶴になることで人間の体を捨て去り、仙人になった。そのために、煙は浴びる必要があり、これはハッピーエンドなのだ。でも、童話では最後が難しいので、教訓話に転化した。という説。

室町時代の「浦島太郎伝説」をベースに考えるのなら、この解釈は可能。

でも、これも原作「丹後国風土記」では成り立たない。

結論

原文である「丹後国風土記、逸文」に残されている、「浦嶋子」の伝説では、

仙女は次のように浦島太郎に伝え玉手箱を手渡した。

「こんな私のことでも忘れずにいて。この玉匣があれば、もう一度ここに戻ってこられる。でも、どんな事があっても開けて中を見ようと思わないで。」

仙女は

浦島太郎が、いつでも仙界(常世の国)に戻れるため

宝貝(タオペイ:仙人が創り出した神秘の道具)のこと

白髪になったのは、単なる事故これが結論。「開けたら老人になるなら、先にキチンと説明してよ」と思うかもしれない。が、仙女だって、そこまで分かるか!どんなに防いでも不慮の事故は起きるもの。