日本から流れ寄ってきた若者たちとおなじフラット(アパートのこと)の
3階に、ルミ子とあたしは大きなトランクを放り込み、とりあえず洋服ダ
ンスに衣服を吊るした。
あ~あ、これからどういういことになるのかな???
アタシのふところはカラッケツだ!
でも‥‥心配はしていなかった。
当座のところ『皿洗い』でもしよう! その前に‥‥
と考えていた。日本大使館へ行こう!
大使館に行けば『K』に会える♪♪♪
あの頃、あの時代、世界を股に掛ける『外交官』という職業は ”あこが
れの職業”だった。よほど優秀でなければ「試験」には通らない。
高校時代におなじクラスだった「K」は、祖父の時代からの外交官一家で、
早々に『英国』という世界トップクラスの国に就任した。
Kに会えれば、何とかなるだろう。
仮に皿洗いでも、紹介してもらえればありがたい‥‥。
翌日アタシは、さっそうと日本大使館を訪ねた。文無しの胸を張って
「Kサンにお会いしたい‥‥」というと‥‥
応対にでてきた男性が、
「はぁ! 彼は数か月前からxxxに赴任して、現在こちらにはいません」
というじゃないの!!!
ジャ・ジャ・ジャ・ジャ~~~ン!
わぁ、どうしよう! わぁ、困っちゃったなぁ!!!
「なにかご用件でも?」
「イエ‥‥実は‥‥あの‥‥」
と、アタシはぶちまけた。
「実は‥‥これこれシカジカで、ロンドンまでたどり着いたが、実は文無し
で‥‥なにかシゴトでも紹介してもらえればと‥‥」
「おやまぁ、文無しっておっしゃいますが、お手元にいくらお持ちですか」
「まるっきりの文無しなのよ! スリーポンドしかないんです!」
「3ポンド! たった3ポンドですか!!! 本当ですか!!! いくら文
無しと言っても、たいていみなさん30ポンドは持っておいでですが!」
「いえ、本当に3ポンドしかないの!」
シェ~~~ッ とは叫ばなかったが、彼は文字通りぶったまげたらしい!
「そりゃタイヘンだな! アッ、それじゃ、もう少しでシゴトが終わります。
少し待っていてください」
しばらく待ったらば♪♪♪
退社したカレはわたしを案内して、ロンドンの賑やかな界隈にやってきた。
「ここはソーホー地区と言いまして、今日は、訪ねていらした「T」に代わっ
て、わたしが夕食をご馳走しましょう」
なんといっても『外交官』の夕食である!
生まれてはじめてめにするような、豪華絢爛の! 中国料理をご馳走にな
ったのだった!