
ある日の夕方、家の玄関のチャイムが鳴りました。
インターホン越しに見ると、玄関には年配の女性が立っています。
我が家は去年、中古戸建を購入して引っ越してきたのですが、以前のアパートとは違って、自治会の人とか営業マンとか、見知らぬ人が訪ねてくることがまま、あるのです。
なので、
自分にとって必要不必要な人かの判断ができない為とりあえず、対応することにはしている。
私がインターホン越しに
「どちら様ですか?」
と聞くと、
女性は
「私は◯◯生命◯◯支店の△△と申します」
と。
そこで、
あ〜、保険会社の営業か〜、と思った。
しかし、女性は、
「あの…
こちらに××さんはお住まいでしょうか…?」
と、遠慮がちに続けました。
××さん、という名前を、私は知っている。
その人は、この家の前の持ち主だ。
××さんが契約している保険会社であるならば、××さんの家庭のことも少しは知っているはず。
なので、
この家に若い(?)女性がいる(おまけに子どもの声もする)ことは、怪訝なことだったのだと思う。
私はとりあえず、
「どういったご用件でしょうか?」
と聞いてみました。
すると女性からは、
「最近××さんへの郵送物が戻ってきてしまって、連絡も取れない状況なんです。
それで、本社の方から家に様子を見に行くよう言われまして…」
との返答が。
それで、私は少し迷ってから、
「××さんという方はわかりませんが、私は去年引っ越してきてこの家に住んでいます」
と答えました。
すると、
私の答えに女性はハッとした顔をした後、
すぐに「失礼いたしました」と言って帰って行きました。

本当は、
「××さんはこの家に住んでいた人ですよね?
去年引っ越しましたよ」
と、言ってしまっても良かったのかもしれない。
でも、
私は××さんと面識が無く、直接的にも間接的にもやり取りをしたことがないのです。
というのは、
××さんはまず不動産会社にこの家を売って、その不動産会社から夫がこの家を購入したから。
この家を購入する時に、
前の住人がどんな人だったのか?
どんな理由で家を売ることにしたのか?
は、気になることだったので不動産会社から聞いていました。
そして、
家を購入する時の売買契約の書類などには、前の住人の名前も載っているわけなので、××さんの名前も知ってしまいました。
…なんだけどさ。
××さんは、次の住人である私たちのことは知らないと思うのです。
(いや、不動産会社さんから聞いてるかもしれんけど)
直接のやり取りはしていない私たちが、ベラベラと××さんの個人情報を他人に話すのはなんかな〜、と思ってしまったのです。

これはおそらく、なんだけど、
××さんは不動産会社に家を売って引っ越した時に、郵便局に転居届を出していたんだと思う。
それから1年が経ち、今まで転居先へ転送されていた郵便物が転送されず戻ってくるようになってしまって、そこで初めて保険会社が「アレ? 」っとなったのだと。
××さんが、
契約しているであろう保険会社へ住所変更を伝えていないのは、
住所変更をするのを忘れているのか。
それとも、
住所変更ができるような状態ではないからなのか。
私は、××さんが新築で家を建ててから10数年で家を手放すことになった理由を、少しばかり聞いてしまっている。
そして、
この家に住んでいると、家の設備や家の傷み方なんかで、××さんの家へのこだわりやこれまでの過ごし方なんかを、なんとなく、感じてしまうことがあります。
なので、
我が家には関係のないことだけれど、
××さんは今どうしているのかなと、
元気で過ごされているといいなと、
今回の件でふと、思ってしまいました。
