リビングの冷たいフローリングでニノを抱いた。「大野さんの好きにしていいよ」と言われたから。
なんで、そんなこと言うんだよ。
なんで。
なんで、いつも、そんな優しくて、冷たいんだろう。
「それが俺だよ」とお前は言うんだろう。お前のこと、全部はわからなくても、お前の言いそうなことはもうわかる。
受容して、突き放して、でも受け入れて。
俺の体の下で切なく吐息を漏らすお前は、そんなことはないと知っていても、いつも儚く見えた。泡と消えるなら、今、掴みたいのに。いつもこいつを抱く時は、得体の知れない焦燥感に駆り立てられた。
でも今夜は抱いた後、じっとして相手の体温を感じている時なぜか、しみじみと思った。
自分はどうなってもいい。
自分から離れて行ったって、最悪、いい。
幸せでいてほしい。
上下する胸をそっと撫でると、情 事 の余韻にか、ニノは「ん…」と体をよじる。俺はニノの体の上にあった自分の体をリビングの床に投げ出した。浅く上下する体とともに、ニノの乱れた髪の一本一本が揺れるのをぼんやり見ていた。
恋愛だと、思ったことはない。
好き、とかじゃない。
でも、こんな祈り、ちょっとだけ癪だけど、たぶん、きっと、愛してるってことなんだろう。
幸せでいてほしいんだ…
「どうしたの」
気づくと、ニノが怪訝な顔でこちらを見ていた。
「や、なんか、幸せでいてほしいな、と思って」
俺はなぜかどぎまぎして、思わず思っていたことをそのまま言ってしまった。言った瞬間、まずい、という思いが頭をかすめたけれど、ニノは「ふっ」と微笑んだ。
「簡単だよ」
ニノはにやりと笑ってから、ぷい、と向こうへ寝返りを打った。「あ、耳真っ赤」と思った瞬間、ニノは言った。
「あなたがそばにいてくれればいいんですよ」
ひゅん、と一瞬、心を木の葉のように巻き上げて去る、一陣のつむじ風。
…ああ、これがニノだったな。
俺が離さなきゃいいのか、と俺は心が軽くなっていくのを感じて、ニノに勢いよく抱きつくと、ぽかりと頭を叩かれた。