Side S
最後の夕食だから、シャルルのスタッフも合わせて一同、レストランに会すことになった。なのに、ヴィラ組がなかなかこない。シャルルの挨拶が終わり、会が始まって場が温まったころ、2人はこそこそとレストランに入ってきた。特別にフリーになっている飲み物をバーカウンターで受け取って、ふたりはまたこそこそした様子で俺の隣のソファ席に座った。
「遅かったじゃん」
俺が声をかけると、ニノは「へ?そうですか?」ととぼけた口調で笑みを浮かべた。だけど、たちまち耳が真っ赤に染まっていく。
「ちょっとまあ…支度が…大野さんが支度中にちょっかいかけてくるからですよ」
智くんはニノをちらりと眇めて、「お前な…」と呟いた。ちょうどそのとき、ビールを持ったピエールがやってきて向かいの席に座った。
「ミナサン、サツエイトテモステキダッタネ!」
「ふふ…当たり前じゃん」
ニノがドヤ顔で言い放ち、俺も智くんもピエールも噴き出した。
「アシタモアル?」
「そうだね…明日ちょろっと撮って終わりだよ」
「イツカエリマスカ?」
「ん…昼過ぎにここを発つ…かな」
「サミシクナリマスネ…」
その場にいる皆が別れを予感してしんみりした。しばらく沈黙が落ちたその場で、ピエールが口を開いた。
「ソウイエバ、アレ、ツカイマシタ?」
「へ⁈ 」
ピエールが智くんに何かを聞いた途端、智くんの顔がだんだん真っ赤に染まっていく。
「ホラ、ロー…フガッ」
ピエールがにこにこしながら、何かを言いかけると、智くんと、それにニノがすごい勢いでピエールの口を塞いだ。
「もう、ピエール、勘弁してよ」
真っ赤になった智くんが言うと、隣でニノも真っ赤になっている。
なんだ?
おそらく1人だけ訳のわかっていない俺が、3人を見回すと、俺と目のあったピエールはにやりと笑った。
「フフ…コタエハワカリマシタ…イイマセンカラ」
ピエールがふたりにそう言うと、ふたりはようやくソファに座った。その動作がシンクロしていて、思わず俺の頰は緩んだ。
相変わらず仲いいな、ふたり…
このふたりだから、ヴィラでも喧嘩せずやっていけたんだろうな…
「ふたり、ヴィラはどうだった?」
俺が思い出したように聞くと、2人の顔が引きつったように見えた。
「へ⁈ どうだったって…?」
「あーほら、最初の日、言ってたじゃん。間違いは起きなかった?」
俺が冗談で聞いた瞬間、智くんは飲んでいたビールを噴き出し、ニノは取ろうとしていたカクテルを盛大に床へ落とし、ピエールは爆笑した。
なんだよ…
俺、変なこと聞いたかな…
南の島を満喫してたら、
インタビューの腕、なまったのかな…