俺たちはビーチからまたレストランへ戻り、もといた隅っこのテーブルで黙って座っていた。俺はゲーム機を手に持っていたけれど、何もやる気が起こらず、眺めているだけだった。仕方ないから皆スマホで日本のニュースなんかを見て、時折話をした。そのときだった。レストランの入り口で、スタッフ達が大きな声をあげたのだ。
「ルネ!」
俺たちはパッと顔を上げた。スタッフに囲まれながら歩いてくる大きな男と、ピエールの後ろに見慣れた影が見えた。
「リーダー!」
相葉さんが叫んで立ち上がる。
大野さん……!
止まっていた体の血がいきなり流れ出したみたいに、体が温かくなり、頭の中は明るくなった。俺はすぐに立ち上がれなかったけれど、皆は立ち上がって駆け寄った。大野さんは照れくさそうに笑った。
「待ってた?ごめん…」
潤くんはため息をついて、大野さんの肩に腕を寄っかからせるようにした。
「よかったーマジで」
「智くん、怪我はない?」
「どこにいたの?」
翔ちゃんと相葉さんが矢継ぎ早に質問し、大野さんはまた照れくさそうに笑っていた。俺は大きな安堵に包まれたと思ったら、今度はなぜか怒りがふつふつと湧いてきた。俺は立ち上がった。
「待った?じゃねーよ!」
「ニノ?」
相葉さんが、心配そうにこっちを見ている。ああ、こんなこと、言いたかったわけじゃないのに…。大野さんがいつも通りのやさしい雰囲気で、待っていた自分の心細さとの落差に怒りがこみ上げたのかもしれない。とにかく止まらなかった。
「聞いたら大野さんが無理に行くって言ったらしいじゃない」
「ニノ」
大野さんが近づいてくる。
「そんなへらへら笑って帰ってきて…」
近づいてくる大野さんがにじむ。
「俺たちがどんなに心配したと…」
涙声になった俺の言葉は、大野さんの抱擁によって遮られた。
「ごめん…」
大野さんは俺をぎゅっと抱きしめた。
「ふ…」
熱いものが頰に伝って止まらなくなった。
「泣くなよ」
「泣くなよって、なんなんだよ…」
次から次へと涙が溢れてきて止まらない。
「ごめん…」
大野さんの手が俺の頭を撫でた。
「そんだけ心配したってことなんだよ、リーダー?」
気づくと皆が周りを取り囲み、スタッフも集まってきていた。大野さんは俺をそっと離した。
大野さん、ピエール、ルネさんが語ったところによると、ボートはピエールを乗せた後、釣りのポイントへ直行した。だけど案の定、天候が悪くなり、戻るタイミングが遅れて、ホテルに戻るのは危険と判断したルネさんが近くの島に一時避難していたそうだ。ルネさんは島の住人らしく体が大きいが、目はつぶらで愛嬌があった。フランス語を流暢に話す。
「連絡いれられなかったの?」
「ん…壊れちったんだよね…ポイント着いてすぐくらいに」
大野さんはポツポツと話した。避難した島は、俺たちが行った島とは別だが、ホテルや近隣のツアー会社がシュノーケルツアーに使う島で、あまり設備もなく、ただただぽつんと設置された小屋で風雨が止むのを待っていたらしい。ルネさんがマリさんに何か話して、マリさんが俺たちに通訳してくれた。
「本来なら天候も悪くなることがわかっていて無線が壊れたらすぐ戻るべきなんですが…判断ミスだった、とルネが申しております。申し訳ありません」
マリさんとルネさんが頭を下げて、俺たちも大野さんも遮った。ピエールはフランス語で何かルネさんに聞いた。
「Parce qu’il semblait avoir trop de plaisir?」
「…Oui.C’est juste une excuse.」
俺たちがマリさんを見ると、マリさんは口を開いた。
「ただの言い訳ですが…大野さんがあまりにも楽しそうに釣りをされてて…それで…」
「ごめん!なんかいっぱい釣れちゃって…」
「大野さんのせいなんじゃん!」
翔ちゃんは帰ってきた安堵からか、冗談めかして朗らかに大野さんを責めた。そのとき、マネージャーが近づいてきた。
「一応、ドクターに診てもらう事になりましたので、こちらへ」
ホテルに近隣のドクターが来てくれたらしい。大野さんはドクターに診てもらいに行き、俺たちは先に部屋に戻ることになった。