「ずっと一緒にいられるかな…」
東京から遠く離れた南の島で、大野さんは俺を抱きしめて、誰に聞くでもない口調で呟いた。ホテルの部屋の、居心地のいいリビングで、俺たちはふたりきりだった。
本気で受け止めると泣きそうだ、と思って、回避すべく慌てて大野さんを胸にすっぽり抱く。その美しい瞳に、俺が映らないように。
わかんない、と正直に答えるべきか、
ずっと一緒だよ、と願望を口にすべきか、
迷った末に俺はただ大野さんをぎゅっと抱きしめた。
…ああ
ここが東京なら、
俺はいくらでも、
なんとでも言えるのに。
大野さんは黙ったままの俺を、遠くを見るように見つめた後、不意にソファから立ち上がった。
大野さんはそのまま窓を開けて、ベランダに出た。開いた窓の隙間から、生暖かい湿った空気が一気に部屋に流れ込んで来る。暑いだろ、と言いかけて俺は口をつぐんだ。大野さんは、ベランダの手すりに両手をかけて、夜空を見上げていた。
「星、めっちゃキレイ」
大野さんはこちらに視線を向けてにこっと笑った。思わずこくりと頷く。ホテルの前の道路を走っているのか、車の音が遠くに聞こえた。
「星の光ってさ、すっごい前の、過去の光なんだよな?」
空を見上げて問う大野さんの喉は、すらりとして、くっきりとした喉仏に同性とは思えないくらいの色香を感じてしまう。俺はドキドキいう胸を気付かれないようそっぽを向いて、こくりとまた頷いた。
「…したらさ、」
手すりに両手をついていた大野さんはきらきらした瞳で振り向いた。
「来年一緒に見る光って、今発生してる光だったりすんのかな」
来年…一緒に…
くすぐったい言葉が俺に染み入っていって、気づいたら頰が熱くなっていた。
「なっ…や、そう…だ、ね」
俺に優しく微笑む大野さんの前髪は、海風にあおられてゆらゆら揺れた。
来年だって、
再来年だって、
…あなたと、
一緒に見たいに決まってる。
「…そうですね。まさに今の光かも」
やっとのことでそう言葉にし、ベランダに近づいた俺を、大野さんは目を細めて抱き寄せた。「すげぇな、それ」と呟いて俺の唇に唇を押し当てる。
「…そうですね。まさに今の光かも」
やっとのことでそう言葉にし、ベランダに近づいた俺を、大野さんは目を細めて抱き寄せた。「すげぇな、それ」と呟いて俺の唇に唇を押し当てる。
何があっても、
きっと、
ずっと、
あなたは俺の心に棲んでいるんだろうな。
鈍く光るどこかの恒星みたいに、
鋭く光るどこかの惑星みたいに、
けして、けして消えない。
大野さんの唇の温度は、俺たちの上で輝くどこかの星で吹く風みたいに温かくて、俺はその腕の中で安堵のため息をそっとこぼした。