Side N
この国の海の色は、好きなたぐいの青だと思った。
ホテルのロビーは小高い崖に建っていて、そこから目もくらむほどキレイな海が見える。
長旅の疲れで、皆、言葉は少なかったけれど、海を見たとたんに「すっごいキレイ」「やべー」と口々に言った。
俺たちは、事務所がいきなり企画した、「南の島で写真集を撮る」という仕事のため、南太平洋にあるこの国にやってきた。
なんでも、アイドルなんかを絶対に撮らないと言われていた世界的に有名なカメラマンが撮ってくれることになったらしい。
俺たちを乗せた飛行機は、一度首都のある本島へ飛んだ。そこで乗り換えて、今度は撮影をする予定のリゾートホテルのあるこの島へやってきた。
離島だからか、日本人の姿は見かけない。そのためか、スタッフがチェックインをしてくれる間、皆、ロビーのソファで思い思いにくつろいだ。
吹き抜けになったロビーの端に立ち、俺がぼんやりと海を見ていたら、とん…と後ろから肩が押される。
「すっげぇな…」
「リーダー」
トイレに行っていた大野さんが戻ってきて、俺の隣に並んだ。
「海きれぇだな」
「うん」
この人も…
言ってみりゃ、好きなたぐいの青、だな…
目を丸くして、リゾートホテルのプールやら、その先に見える水上ヴィラを眺める大野さんをちらりと見る。
長時間のフライトは乱気流に巻き込まれて不安だったけど、穏やかな青い海を見ていると来てよかったと思う。
大野さんも…
満足そうだしね…
「釣り…とか…行く暇あっかな?」
「ふ…どうだろね」
そんな時間はなさそうなスケジュールだったけど、楽しそうに笑う横顔を曇らせたくなくて、ふ、と微笑む。大野さんもふふっと笑った時、チェックイン手続きに行ったマネージャーがパタパタと戻ってきた。
「えっと…ちょっと困ったことになりました」
「どうしたの?」
Jが、座っていたソファから身を起こした。俺たちも皆と輪になるようにソファに座った。
「部屋が…うまく予約できていなくて…」
「足りない?」
相葉さんが心配そうに尋ねる。
「はい。大変申し訳ないんですが、お2人だけ同じ部屋に泊まっていただく形になります」
俺たちは顔を見合わせた。最近は同室に泊まることはほぼなくなっていたからだ。
長くグループをやっていると、メンバー同士、適度な距離感は必要だから、それはちょうどよかった。
「俺は…出来たら1人部屋にしてもらった方がいいかな…ライブの打ち合わせとかスタッフさんとするだろうから」
「俺も…ちょっと疲れてて…申し訳ないけどひとり部屋希望だな…いびきすげぇし」
「じゃっ…俺もっ…俺も1人部屋がいいかな」
Jと翔ちゃんが遠慮がちに主張したあと、なぜか相葉さんが追随した。
「お前、一人じゃなくてもいいだろ?」
俺が声を上げると、相葉さんは「なんで、俺だけにツッコミいれんの」と笑った。
「えっと…」
マネージャーが俺と大野さんを交互に見た。
俺は別にいいけど、大野さんはどうなんだろ…
「じゃ、俺らでいっか?」
大野さんは俺の方を向いてあっさり言った。
「う…うん…」
「え、イヤ?」
「いや、あっさりしててびっくりしただけ」
心配顔になった大野さんに俺が慌てて言うと、大野さんはニコッと笑った。
「は〜よかった、じゃあ、大野さんと二宮さんですね…」
マネージャーが明らかに安堵した顔になったところに、ホテルのスタッフがやってきて、英語で何か話しかけた。
「部屋の準備が整ったようなので、行きましょうか」
マネージャーが言い、皆は立ち上がった。
大野さんは両手を上にあげて、伸びをひとつした。