BL妄想です
苦手な方はお気をつけくださいませ
Side N
夜はまだ入り口だ。送迎車の外は暗いけれど、夜空にはまだ青が残っている。こんな時間帯にみんな、夜をどう過ごすか、誰と過ごすか、決定していくんだろう。
俺は送迎車の中でずっとあの人のことを考えている自分に気づいた。大野さんは、きっともう俺のことは考えてないのに、なんか悔しい、と思った。
でも…そうだ。
ある考えがひらめいて俺はスマホを取り出した。
振り付けを考える作業が佳境に入る前に、ちょっとくらい、あの人の心をもらったって罪にはなんないはず。なんたって今日、俺は一緒に過ごせないんだから。ちょっとだけ大野さんの気をひくくらいのこと、それくらいの楽しみがあったっていいだろ?
突然思いついた考えながら、俺は中途半端な完成度でその考えを実行に移すつもりはなかった。やるなら、全力で、あの人の心をもぎ取ってやる。一瞬でいいんだ。
どれだけ俺があなたのことを知っているか、
どれだけ俺があなたのことをいつも考えてるか、見せてあげる。
でも、もちろんそんなこと、
見せてあげるとしても、
俺がそんな風に思ってるってこと、
あなたに知られたくはないんだ。
そこが腕の見せどころ、ってやつだよね。
俺はあの人が絶対に気にいりそうな釣りの動画を検索し始めた。わかりやすくて、驚きがあって、すぐ見終われる動画。それは案外すんなり見つかって、俺は大野さんに送信した。
俺は、
あなたの心を一瞬でも乱せるのかな?
それは、今日会うよりも楽しいことのように思えた。