苦手な方はご注意くださいませ
Side O
電話を切って、しばらく放心状態になった。
おいら…今なんて言った?
すごくひどいことを言った気がする。そして、ひどいことを言われた気もする。
なんで、こうなったんだろ。
「どうしたの?ため息」
タカジュンが心配そうにこっちを見ていた。
ニノ、タカジュンのこと女って思ってたな…
そりゃ、この声だとそう思うか。
「その女の人、誰?」って聞かれて、つい口ごもってしまった…
女じゃない、って言って、タカジュンに聞かれたら、タカジュンを傷つける気がして…
「なんか強めの酒、もう一杯、くんない?」
「オッケー」
タカジュンはにっこり笑った。何かを察したのか、酒を出した後は放っておいてくれた。
でも、そっか…
ニノは、不安になったかもな…
女だけど、そういうんじゃないよって、言ってやりゃあよかった…
そもそも、と俺は考えながら店内に目を走らせた。
ここに来ることになんとなく後ろめさがあったから、いきなりニノに聞かれてアワアワしてしまったんだよな…
ニノに、「まだ決まったわけじゃない」と釘を刺されたことを思い出す。
たぶんニノは、まだ納得していないだろうに、俺が先走って内緒で聞きに来たようなもんだし…
俺はまた、はぁ、とため息をついた。
なんであんなこと言っちゃったんだろ…
思考はまた振り出しに戻った。
…そっか、釣りのこと言われたからだ。
おいら、おととい釣りの話してたんだよな…
ニノはきっとおいらが今日釣りに行ったって思ってたんだろう。
「気を遣って」ってニノが自分で言うってことは、相当気を遣ってくれてたんだろうな。
ってか、ニノ、何の用事だったんだろ…
やっぱ、ちゃんと聞かなきゃ。
俺は、スマホをもう一度取り出すと、着信履歴からニノの電話番号をタップした。
だけど、冷たく鳴り響くコール音が聞こえるだけで、その後何回かかけたけれど、結局その夜はニノと話が出来ずに終わってしまった。