傍で眠っているさとウサギは、時折かすかに鼻をひくひくさせて、むにゃむにゃと声を出しているところを見ると、まだ夢の中にいる様子です。
「さとし、何かくるかも」
誰かの話す声が徐々に近づいてくるのがわかって、ニノウサギはさとウサギを揺り起こしました。
ドアが外から開けられたのと、さとウサギが目をこすりながら起き上がったのは同時でした。
「わっ…なんだお前ら…ってか、ニノ?…とさとしさん?」
「あれぇ…ウサジュンじゃん…おはようー」
さとウサギはにこっと笑いました。ウサジュンと呼ばれたウサギは、ウサギなのに『ふしぎなサングラス』を身につけていました。濃ゆい眉毛がサングラスから見え隠れします。
「ウサジュン、どうしたの?…あっ、ニノ…とさとしくん」
ウサジュンの後ろからまた2匹、顔を出しました。サクライウサギとアイバです。
あれ?どうしてでしょう?
アイバは見た目はウサギですが、名前には「ウサギ」と付いていません。
アイバはウサギではないのでしょうか。
アイバとは、何者なのでしょうか?
アイバは、アイバです。
不思議ですが、そういうものなのです。
「ここ…じゅんの小屋だったんだ」
「そうそう、一応別荘として使ってるんですよ…って、お前ら!」
ニノウサギはウサジュンの視線に気づいて、慌てて毛布を隠しましたが、時すでに遅しでした。
「お前ら…おれの別荘で『がったい』しただろ!」
ウサジュンは目ざとく何かの痕跡を見つけたようなのです。
「ごめん…だって…さむかったんだもん」
「だもん、じゃ、ねー!」
怒るウサジュンの後ろで、サクライウサギはくっくっと笑いました。アイバはキョトンとしています。
「まあまあ、緊急事態だったんだろうから、大目に見てやってよ」
「まあ…しょーさんがそう言うなら…」
(しょーさんと呼ばれたのはサクライウサギです。本当の名前はサクライ・ウサギ・ショウと言うからです。長いので、お話の中ではサクライウサギとしています)
しゅん…とした(ように見える)2匹と、優しく笑うサクライウサギを見て、ウサジュンは怒りをおさめてくれた様子です。
「ねえ、俺の家への道ってわかる?俺ら迷っちゃったのよ」
ニノウサギがそう切り出すと、ウサジュンは考えるように空を見上げました。
「たしかに、ここからだとかなり遠いよ?俺もアイバさんに乗せてもらったんだもん」
「アイバさんに乗せてもらった⁈ 」
ニノウサギとさとウサギは驚いて同時に声をあげました。
「ちょっ、それ、言わないでよっ」
アイバが笑い混じりにウサジュンに言うと、ウサジュンも笑って言い返しました。
「何でだよ、いいじゃん」
「呼んだげなよ」
サクライウサギもアイバを見つめながら、ニコッと笑って言いました。
「もう、ホントは秘密なんだからね」
アイバはそう言うと、両手を頭の後ろに回して、4匹の周りをぐるぐる回りだしました。足を後ろへ強く蹴り出すような特徴的な走り方です。
「あれ、言ってもらっていい?」
アイバはウサジュンを見ながら言いました。
「えっ、俺が言うの?」
「うん…ゾーンに入ってないと意外と自分で言うの恥ずかしいんだよね」
「わかったよ。行くよ」
ウサジュンは手を口に添えて、森の奥に向かって叫びました。
「おい、お前らー!アイバの名前はなーんだっ」
それを聞いたニノウサギは「マサキじゃないの?」とボソッと呟き、サクライウサギも「そうなんだけどね」と笑って言うので、さとウサギは思わずニノウサギの方を見ました。
さとウサギはアイバという呼び方しか知らず、ニノウサギがそんなにアイバのことをよく知っているとは思わなかったのです。
さとウサギは少し面白くない気持ちになりましたが、すぐに森の奥から聞こえてくる不思議な声に気を取られました。
「なんか…近づいてくる」
ニノウサギが呟いて、さとウサギは耳をすませました。どうやら複数の声が聞こえます。遠くの木々の合間から、何かが近づいてくるのが見えました。
ディスコスター!
ディスコスター!
ディスコスター!
何と言うことでしょう。
さとウサギとニノウサギはびっくりして口をあんぐり開けました。
たくさんの『じゅにあ』が神輿を担ぎ、声をあげながらやって来るではありませんか。『じゅにあ』とは年端もゆかない子ウサギを中心に構成された集団です。
ディスコスター!
ディスコスター!
ディスコスター!
近づいてきたじゅにあ達はアイバの前で止まると、一様にしゃがみました。神輿の戸を1匹のじゅにあがさっと開けてくれます。
「さ、乗って乗って」
アイバは不思議な走り方をやめると、あっけにとられたままのさとウサギとニノウサギの肩を押し、神輿に押し込みました。ウサジュンとサクライウサギは慣れた様子で神輿に乗り込み、アイバ、いえディスコスターが最後に乗り込みました。
アイバがいつもより野太い声で「俺の名前は何だ⁈ 」と声をかけると、じゅにあ達はやってきた時と同じように声をあげながら、再び神輿を担いで出発したのでした。