Side S
ニノはこくんと頷いた。その手がぎゅっと握られているのを見て、俺はごくっと唾を飲み込んだ。
「どうだった…?」
「一人で見て…ごめんね…」
ニノはぼそっと呟いた。
と思うと、次の瞬間、にこっと笑った。
「受かってたよ!」
「なっ…」
意味がわかったと同時にへなへなと力の抜ける俺に、ニノは飛びついてきた。
「おまっ…ウソつくなよっ」
「ふふふっ…俺、ウソはついてないよ?」
ニノは俺の体を抱きしめて、キラキラした瞳で俺を見上げた。さっき青白く見えた頰にはピンク色が差して、唇もつやつやと見えて、俺は恐る恐るニノを抱きしめた。
「受かったよ?先生、何か言って?」
「…おめでとう!」
ぎゅっと抱きしめると、ニノは甘えるように顔を俺の胸に寄せた。
「おめでとう…ニノ」
「先生の…おかげ」
ニノは顔を上げてふふっと笑った。
やっべ、かわいい。
このまま、連れて帰りたい…
「あーっ、翔と幼なじみくん!どうだった?」
突然、声が上がってそちらを振り向くと、クラスメイトのケイタとケイコ…
「受かりました」
ニノが俺の体から離れながら笑って答えると、ケイコは破顔した。
「おめでとう!」
「そっか~めでたいなあ。これでお前さんもここの学生だね」
ケイタは俺の方を向いてニヤッと笑った。
「春が来ましたなあ」
「うん…よかった…まあニノが頑張ったからだよ」
「違うって、お前にも春が来たなって」
「は?」
ケイコも手を口元に持って行ってふふっと笑った。
「2人、ぎゅうっとしてたよね~こーんな公衆の面前で」
「そっ…それは…嬉しくて…つい…」
「さっき、声かける直前、お前鼻の下超伸びてたぞ」
「のっ…伸びてないわっ」
恥ずかしくて、ニノの方を見られない。
「じゃあ、そろそろ行くね。幼なじみくん、名前なんだっけ?」
ニノはにこっと笑った。
「二宮です。それでニノ」
「そっか、覚えとく。今度会うときは後輩だな」
「ニノ、バイバーイ」
2人がテンション高く行ってしまってから、ニノは俺を見上げてまたにこっと笑った。ゆっくり俺の顔に手を伸ばす。
「鼻の下…」
そう言って、ニノは俺の鼻の下、唇の上にそっと触れた。
「の、伸びてないだろ?」
「わかんないよ」
片手で口元を覆ったまま、ニノはころころと笑っていた。