Side S
それで…それに『OK』って言えたら…
どんなにいいんだろ…
俺はニノから視線を外して、テキストに目を落とした。
「実用性の…感じられない英文だけど…合ってるよ」
声がかすれないように、慎重に言う。
「実用性は…あるよ」
思わずニノを見ると、にこっと笑って、首をかしげる。
…それって、どういう…
俺の止まってた頭が回り始めたとき、ドアがこんこん、とノックされた。ドアが開いて、持ったお盆に飲み物を乗せたニノの母親の姿が見えた。
ニノの母さん…グッドタイミング!
いや…ある意味…バッドなのか?
どっちなんだ…わからん!
「翔先生、和也はちゃんとやってるかしら?」
「いや~先生なんて…。和也くんがちゃんとしてますからね」
勉強机に置かれた二つの紅茶を、倒さないように奥に置き直しながら俺は笑顔で言った。
ニノの母さんは、にこっと笑って、「和也、翔くんの言うことちゃんと聞くのよ?」ってニノに言いながら、部屋を出て行った。
「さてと…じゃあ、改めて、宿題で出したとこはどうなる?」
さりげなく ー少なくとも俺はさりげなくやったつもりだったけれど、実際はわからないー テキストに戻ってニノの横顔を窺う。いつも通り、テキストを真剣に見つめる横顔からは、さっき口にした言葉に関する感情は読み取れなかった。
はあ…
相変わらず人を翻弄するのがうまいんだから…
俺は、ニノの家庭教師になってから、何度目かわからないため息をついた。
人の気も知らずに…
のこのこ問題解いてんじゃねーよっ…受験生め。
って、受験生なんだから、問題解くんだけど…ね。
ふと、勉強机の横の窓を見ると、外の雪が激しくなってきたようだった。時折、窓ガラスに白い雪が打ちつけられる。
そういや、
嵐が来るかもって…
天気予報で言ってたな…