Side N
「あ…やべ…」
「ん?どした?」
俺の体に唇 を這 わせていた大野さんは不意に顔を上げて、焦った声をあげ、次の瞬間、
「ハッッックション‼︎」
と盛大にくしゃみをした。
「ぶははっ…お前、絶妙なタイミング…」
鼻水まで飛び出たのを見て俺は思わず吹き出した。俺は起き上がって、ベッドサイドのテーブルからティッシュをとって、鼻水を拭いてやる。さっきまでの激しさはなりをひそめ、されるがままになる大野さんは子供みたいで可愛かった。
「そういえば…風邪ひいてんだった…」
大野さんは呟いて、額に手を当てた。その手を取って、俺は自分の額を彼の額にくっつけた。
「ふふっ…まだ熱あるよ…続きは…今度、元気になったらしよ?」
「ん…もう元気だもん…」
大野さんはヘッドボードにもたれかかって、立てた膝を開き、そこへ俺を抱き寄せた。天井を向いた大野さんのが、俺にあたる。
「こっちは元気かもしんないけど…ね?」
諭すように言って首をかしげると、口を尖らせたまま頷いて、俺を抱きしめる腕に力を込めた。
「なあ…もう大人しくすっから…ここにいて?」
「それって…朝まで?」
顔を見ると、じっと上目遣いでうなずかれて、大野さんもたいがい小悪魔だ…と思いながら、俺は明日のスケジュールを頭の中で展開する。
「ちょっと聞いてみるから」
十数分後、俺は寝巻きに着替え、大野さんに抱きしめられて、ベッドに横たわっていた。
もうすぐ日付が変わる。
俺が身じろぎして、目を閉じた大野さんの顔をじっと見つめると、彼は目を開けた。
「にの…」
甘えたような声で呟くから、どきりとする。
「好き」
顔が熱くなって、言葉がうまく出てこなくて、曖昧に頷きながら大野さんの首元に顔を寄せる。
「ニノは?」
俺は…
少し熱の下がった大野さんの温かい体にくるまれながら、俺は呟いた。
「俺は…好きなんかじゃないよ」
「ニノぉ…」
大野さんは困惑と不満が入り混じった声で俺をまたぎゅっと抱き寄せる。その唇にちゅっとキスすると、大野さんはキョトンとした。
「好きなんかじゃ言えないくらい…って意味」
「それって…まとめると好きってこと?」
「まとめんなよ」
んふふ、と大野さんは満足そうに笑って、姿勢を変えて俺の手をぎゅっと握って目を閉じた。
俺がきゅっと手に力を入れると、かすかに握り返してくれる。
やれやれ、
これにて、
狩猟(ハント)、完了。
この先は、
いつ、釣った魚に餌をやるか…
だね?
俺は、寝息を立て始めた大野さんの鼻先に、そっとかすめるように、一瞬のキスをした。