Side N
翌日、うちのグループの練習が始まる前に、売店に立ち寄って、体育館に向かう。
アイツに大野さんは誰のもんか、はっきりさせておかなきゃなんない。
体育館に着くと、アイツのグループの練習が始まっていた。
休憩になったのを見計らって、体育館を出たところにある花壇の脇に呼び出した。
「なんですか?二宮くん」
昨日、俺を陥れる爆弾発言をかましたようにはみえないあどけない笑顔で、彼は俺に尋ねた。
その鼻先に、さっき売店で買ったモノを突きつける。
「ポッ○ー…どうしたんですか?これ」
「やる。俺がお前とシェアできるのはコレだけだから」
むすっとしたまま言うと、彼は肩を震わせて笑い始めた。
「それって…要は、大野くんはそうじゃないぞって言いたいんですよね」
「よくわかったな。話が早い」
彼は心底おかしそうに笑って、俺を見た。
「二宮くんってホント可愛いですね」
「は?」
「僕、昨日、二宮くんたちが部屋に戻った後、宴会にちょっといて、自分の部屋に戻ったんですけど…」
彼の言いたいことがわからなくて、無言で先を促す。
「ちょうど大野くんの部屋の前通ったとき、部屋の中から大野くんのじゃない…小さな声が聞こえたんですよね…」
え……
それって……
もしかしなくても……俺⁈
「ちょっと高くて…」
彼は俺に向かって一歩踏み出した。思わず一歩後ろに下がる。俺の肩に壁がぶつかった。
「かわいい、甘えたような声でしたけど…」
彼はもう一歩俺に向かって踏み出して、顔を俺に近づける。俺はもう下がる場所がなくて、代わりに彼を睨みつける。彼はその細くて白い指で、俺の頬に触れた。
「あれは、誰の声か…知ってますか?二宮くん」
「っ…」
彼の指が俺の首筋を伝う。思わずはねのけようとしたら、両手首を掴まれて壁に押し付けられた。
「お前っ…何すんだよ…」
「何って…あの声がもう一度聞きたいなって…」
そう言って、顔を近づけてくるから精一杯顔を背けてやる。
「ヤメ…はなせよ…」
「ふふ…僕より力弱い…かわいい…」
「…あ…」
顔を背けたら、ノーガードになった首筋にちゅってキスされた。
「ふふ…やっぱり二宮くんの声だったんだぁ…」
「ちげーよ…んっ…やっ…めろ」
再び 首 筋 に押 し 付けられた奴の唇 が開いて、熱 い 舌 が 吸 い つ い て くる。ぴくっと自分の身体が反応して、俺は焦った。必死で手首を動かそうとしてみるけど、まったく動かない。
こいつ、可愛い顔してるくせに、なんつー力…
ってか、俺が力なさすぎるだけなのか…
「おーい、お前ら何しとんの?」
のんびりした聞き慣れた声がして、俺は心底ほっとした。
「ヒナ…」
ヒナとヨコが宿泊棟からゆっくり歩きながらこちらへやってくるのが見えた。
「村上くん…と横山くん」
奴は動じた様子もなくにこっと笑って2人に手を振る。
「なんや、不思議な組み合わせの2人やのう」
近づいてきたヒナが不思議そうな顔をした。
「何してたん、2人くっついとったけど」
「ふふ…実は超仲良いんで」
「嘘つけ」
悪びれもせずにこっと笑うそいつに内心舌を巻きながら、俺は吐き捨てるように呟いた。
そんな俺を見て、ふふっと微笑んだ奴は花壇に置きっ放しになっていたポッ○ーを手に取った。
「これは、いただいておきますね。…また、何かいいもの下さい。僕、二宮くんのくれるものは嬉しいし、もちろん大野くんのも…欲しいんです」
妖艶に微笑むと、ヒナとヨコにちらっと会釈して、体育館に入っていった。
脱力して、その場にしゃがみこむと、ヒナとヨコがニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
「見たで。カンペキ浮気やん、自分」
「手広いな、ニノ」
「違うってば…」
「今のこと、おおちゃんに言ってええんか?」
「なっ、ヤメろよ‼︎」
思わず立ち上がって声をあげたら、2人が弾けたように笑い出す。
「ふっ…嘘やってば、怒んなや。練習あんねやろ?一緒にいこ」
ヒナが俺の肩を抱いて、ぽんぽんと叩いた。調子のいい2人の顔を軽く睨んで、俺は彼らとともに体育館に入った。
大野さんは俺の、って言いに来ただけなのに…
なんでこうなったんだろ…