〈2〉

彼は困ったような笑みを浮かべていた。
「俺って、存在、薄いのかな」
「誰だかわかんないわ。なに?トランプ?参加しろって?」
「いやじゃなかったらお願いします」
「いいわよ。トランプなんて久しぶり。なにやるの?」
「ババ抜きです」
「はあ?」
 このような場所で、いきなり喧嘩を売るとは。
最近の若い奴は礼儀作法を知らない。年上の女性への配慮とか、気遣いとかに無頓着過ぎる。
私は男の顔をじっと眺めた。正座したままの男を値踏みするように、上から下へ、下から上へと見てやった。 
 男は動じることなく黙って私の方を向いている。反応するどころか、微笑さえ浮かべているではないか。なんという図々しさ、全く持って空気の読めない今時の若者。いや、待てよ。もしかすると、生粋のM男なのかもしれない。
 私は、努めて冷静に言った。
「あんたさ、ケンカ売ってるの?」
「売ってません」
 男は即答した。
「ババ抜き、なんでしょ。ババ、ぬき」
睨みつけてやった。男は、やはり表情を変えずに、
「自分から言わない方がいいですよ。本当のおばさんに失礼ですよ」
 諭すように言った。
 言い返す言葉も見つからぬまま、私はババ抜きに参加していた。
 そして・・・年長者の私が敗北した。
「ありがとうございます」
男は律儀に頭を下げ、礼を言った。
なぜ、負けた私に「ありがとう」なのか。罰ゲームの餌食になった私に、なぜお礼を言うのか。
 罰ゲームの意図も理解できない。いい歳をした大人たちが、トランプのババ抜き。しかも罰ゲーム付き。