☆☆☆ その① ☆☆☆
たっくんの威嚇。二歳の頃。
とにかく乱暴だった。自宅の庭で一人で砂遊びをしているところへ、
近所の女の子が通りかかる。
「たっくーん」嬉しそうに駆け寄ってくる。
たっくんは、目の前の可愛い女の子に向かって突然、砂をかける。無
言で、狂ったように砂をかける。かけ続ける。
「たっくん、やめて」女の子は懇願するが、砂かけをやめようとはし
ない。
異変に気づいた私が、走って行って、たっくんの手からスコップを取
り上げる。
たっくんは「だめー、だめー」を連呼。スコップを取り上げられたか
らではない。女の子に向かって「だめー」と叫んでいるのである。
何がダメなのか。
「ねえ、たっくん。どうしてこんな意地悪するの?」女の子のママが優
しく尋ねる。
「だめぇー。だめぇー」吠え続ける。飛び跳ねながら叫んでいる。
女の子は泣きながらも「たっくん、あそぼ」と言う。
たっくんは口を結んだまま仁王立ち。
私は「ごめんね。今日は、たっくん、一人で遊びたいみたい」そう言
って、女の子が立ち去るまで、たっくんの身体を押さえている。
女の子が見えなくなってから、スコップを渡すと、たっくんは何事も
なかったように、また一人で黙々と砂遊びを始める。
縄張りに侵入してきた敵に対する威嚇。
子猿が、可愛い♀猿に、こんなにも威嚇するのはなぜなのだろう。
家の前を通る幼子たちを、狂暴猿から守らねば。家の周りを鉄柵で取り
囲んだ。たっくんが脱走できないように、門扉に鍵もつけた。
『危険! 乱暴な男の子あり。なるべく近寄らないでください』そんな看板を
設置した記憶がある・・・。 二十年ほど昔の話である。
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