2002年7月 健太君 高校1年生の頃

由紀菜のリュックの秘密を俺と由紀菜は二人で共有した。
あまり、二人で一緒にいる事なんかないため、すごく緊張した放課後だったが、
由紀菜と距離が縮まった日でもあった。

そして、この共有したリュックの秘密が、
が数日間悩み続け、求め続けた答えを導き出してくれる事になるのだった。


リュックの秘密を由紀菜から教えてもらってから、1週間経った日の事だった。
大悟藍佳由紀菜の4人は学校が終わり公園に行くことになった。

『俺さ、この公園にいい思い出がねーんだよな。』 『私も。』
『まあ、不良がウロウロしてるんだから、物騒な公園だわ。』
『健太って中学の頃、本当にいじめられてたの?』
『あぁ、そうだよ。』
『その俺をいじめた不良をボコボコにしたのが、ここにいる由紀菜のグループだった。』

『なんかさ、すごい偶然だよな。』
『由紀菜も健太も俺たちも別々の中学校だったのに、こんな風につながってるんだもんな。』
『うんうん。そうだよね。』

『俺さ、友達いなかったからお前らが友達になってくれて、本当楽しいわ。』
『なんだよ、シミたれてんじゃねえよ。』
『あはは、健太うけるー(笑)』

『一人はさびしかったよね。』 『ずっと、友達だよ♪』
『おう、そうだな!』
『由紀菜ちゃんも最初はいじめられてたから、健太の気持ちわかるよね。』
『ずっと、4人は一緒だよ!!』


俺たち4人は顔を見合わせて、照れくさそうに笑った。
この公園にはあまり長居したくなかったため、
10分くらいの滞在で場所を移すことにした。
しかし、運悪く俺をいじめた不良グループがこの公園に来た。
不良グループは10人くらいいるのだが、今回は3人だけだった。

『やべ…。』 『あ…。』

『おい、このヒョロナガ野郎、健太じゃねえか!』
『うわ、マジだ。女つれてるぜ、コイツ(笑)』
『つか、この女!!!!!!!!』 『あ?』 『は???なんで一緒にいるんだ!!』


『でも、以前のメンバーじゃないな、それに4人だけだし。』
『そのうち一人は健太だし、ボコす?』 『いや、この女はやべえ。』
『大丈夫だろ。』 『まあ、金欠だし、金払えばよしにするか。』
『そーだな。』 『って、事で金よこせ。』


すると、大悟が俺の肩を叩いた。

『なあ、コイツらボコしていいか?』
『やめろ…。勝てねえよ。高3だぞ、こいつら。』
『背は俺と健太の方がでけーぞ?』 『やめてくれ…。勝てねえ。』
『そうだよ、大悟。ケンカはやめよ、お金ならあげちゃえばいいじゃない!』
『そうだね、私たち4人分集めたら1万円にはなるでしょ。』

『おい、女。』 『お前、成長したな。』
『高校生になって考え方、マシになったか!(笑)』
『つーか、違う意味でも成長してるな。コイツ、かわいいぞ。』
『確かに、一発抜かせろや。』
 『…。』


すると、大悟が不良グループ3人に突っ込んでいった。

『てめえ!!!!!!!!』
『俺の彼女に何言ってやがる!!!!!!!!!』
『ぶっ殺してやる!!!!!!!!』


だが、1人vs3人では当然勝てるはずがなかった。
何発か大悟のパンチが不良グループに当たりダメージを与えるが、
3人も必死に大悟を取り押さえ、なぎ倒した後は何度も蹴ったり踏んづけていた。

藍佳は泣いていた。
その場に座り込み、顔を手で覆っていた。

だが、由紀菜は違った。
地面の砂をつかみ、3人の目をめがけ投げた。
すると、3人ともひるんだ。
次の一手は…。もう、何もなかった。
必死に大悟を救出し、大悟を不良集団から遠ざけようとした。

『大悟、逃げて!!!!!!!』 『由紀菜!!!!!』
『力が違いすぎる!!勝てるわけないじゃない!!』
『くそ…。守れねえのかよ!!!!!』
『いいから、逃げて!!!!!!!!!!!』


大悟の口が切れたのか、血が出ていた。
そして、お腹を何度も殴られた事もあり、起き上がるので精一杯の様子だった。

『藍佳ちゃん、今は泣いてる時間じゃない!!!!!』 『うん…。』
『早く、大悟を遠ざけて!!!!』 『分かった!!!!!!!』


由紀菜は砂を払っている3人に突進していった。
その隙に、大悟は藍佳に抱えられ、その場から少し離れた。

『おい、女!!!!!!!!!!!』
『お願い!!!やめて!!!』 『お金なら渡す!!!』
『3人を傷つけないで!!』
 『3人って事はてめえは殴っていいのか?』
『構わない!!』 『んじゃ、土下座しろ。』


俺は、ただただボーっとその光景をみていた。
何もできなかった。怖かった。
そして、由紀菜はリュックを置き、地面に頭をつけた。

『3人には手を出さないでください。お願いします。』
『由紀菜…。』 『なんで…だよ。』

すると、不良3人組は由紀菜の頭を踏みつけた。
『おらおら、女ぁぁ。』
『土下座の仕方がちがうだろ??』
『もっと、頭を擦り付けるんだよ。』
『デコから血がでねーと、土下座って言われねえんだぜ??』

『はい…。』

大悟も、藍佳も少し離れた場所から見ていた。
言葉を完全に失っていた。藍佳は口を手で多い、大粒の涙を流していた。

由紀菜への執拗な攻撃は続いた。
つま先で、肩や背中、横腹と何度も蹴られていた。
それでも、由紀菜は土下座をやめなかった。

すると、由紀菜の隣に置いてあったリュックを不良グループの一人が思いっきり蹴り上げた。

『なんだ、これ。ジャラジャラ、だせーな!!!!』

そして、入っていた教科書や筆箱。メイクの道具も全部ぶちまけた。
それでも飽き足らずに、リュックを何度も何度も踏みつけた。
缶バッチがいくつかゆがんだのがわかった。

あぁ…。由紀菜…。
それ、大事なリュック…。
何で、土下座やめねーんだよ…。
お前が一番大事にしてるもんじゃねえかよ。
由紀菜この前、ちょっと悲しい顔で教えてくれたよな。
この缶バッチの意味をさ…。



『おい、由紀菜…。』
『もう、いいじゃねえか…。土下座やめてくれよ…。』
『お前のリュックが…。』


俺は由紀菜のそばに歩みよった。

『おい、ひょろなが健太!!!!!』
『てめえ、何もできねーなら、入ってくんじゃねえよ!!!!』
『邪魔だ。クズ。』
『つか、この女。さすがだな。気持ちわりーわ。不気味すぎる。』
『土下座してから、ずっと体勢崩さねえ…。』 『確かに、つまんねえな。』


『おい、健太。次はてめえが土下座しろ。』
『お前みてえな、弱虫が一番楽しいわ。やっぱ。』


すると、不良グループは俺の髪をつかみ、そのまま押さえつけた。
だが、そんな時、由紀菜がすぐに俺に覆いかぶさった。

『乱暴しないでよ!!!!!!!』
『私が土下座したら、暴力ふらないって約束したじゃんか!!!!!!』
『だって、お前つまんねーし。いじめるなら、健太がいい。』
『お願いだから、やめて!!!!!!!』

『私の大事な友達なの!!!!!』
『私を殴ろうが、私の物をグチャグチャにしようが、それは構わない!!』
『お金だって、あげるよ。』 『でも、私の大事な友達だけは傷つけないでよ!!!!』
『イヤなの!!!!!!!!』
『もう、彼を傷つけないで!!!』
『見たくないの!!!私の大切な人が傷つく姿は!!!!!』


この瞬間だった。
俺はハッとしたのと同時に、
ずっと悩んでいた答えが頭の中を広がっていき、
目の前が明るく光るような感じに襲われた。

仲間…。傷つく…。
そうか…。
俺は何を悩んでいたんだろう。
俺が求めていた答えは簡単だった。
ここにいる由紀菜の笑顔が…全てだったんだ。

俺がどんなに殴られても、心を傷つけられても、
どんなにダサい俺であっても、
由紀菜は絶対に俺を裏切らないんだ。
もし、そんな由紀菜が傷ついていなくなっちまったら…。
それは、俺が困るんだよな。

今まで俺は友達がいなかった。
だから、一人で生きることが当たり前だったし、
信じられるものは自分だけだった。
でも、由紀菜はそうじゃない。
俺の為なら、仲間のためなら、どんなに傷ついてもかまわないと思ってる。
仲間の笑顔を失いたくないから。

由紀菜。
俺も一緒だよ。
お前の笑顔。守るから。
そうやって、アイツらと約束したんだ。

そうか、そういう意味だったんだ。
アイツらも由紀菜も本当すげーよ。
これが、本当の仲間なんだな。
そりゃ、みんな救われたって言うわけだ。
俺も、由紀菜に救われたよ。
こんなに安心感のあるヤツ、どこ探してもいねえや。



状況はすぐに把握できた。
俺は頭を押さえつけられ、何発も蹴られる中、
由紀菜が必死に俺に覆いかぶさって守ろうとしてくれていた。

そんな由紀菜を俺は即座に体を起こしギュッと抱きしめた。
由紀菜はびっくりした表情を見せた。

『え…。』
『ごめん。俺、わかった。』
『わかったって…。何が!!』
『俺は勝てる。』


不良グループの言葉は聞こえなかった。
でも、うるさい声と同時に足が俺の顔面めがけて飛んでくるのがわかった。
その足を片手でつかむと、相手はよろめいた。
俺は立ち上がり、よろめいた相手の溝おち・肋骨あたりを振り下ろすように殴った。
バキっとにぶい音と共に相手は悶絶し、その場でのたうちまわった。

『え…。』 『なんなの!!!』

残り二人の首をそれぞれ片手で掴んだ。
相手が苦しそうにもがくが、ピクリとも俺の手は二人からぶれることはなかった。
相手は目を見開き、恐怖の表情を見せた。

『くぅ…。は、はなせ!!!!!』
『てめえ、なめたマネしやがって。健太のくせに!!!!!!』


『あぁ、離してやりたいのは山々なんだけどな。』
『お前、一瞬、由紀菜の笑顔うばったよな?』
『俺の彼女泣かせたよな?』
『俺の大事な友達…。ノックアウトさせてくれたよな?』
『何をした?俺たち。』

『うぜえんだよ!!!!!!!!』
『口のきき方、気をつけろや。』
『離せ、クソやろう!!!!!!!』


『俺の大事な友達、傷つけてんじゃねえよ!!!!!!!!!!!!!!!!』


首をつかんだまま、二人をそのまま持ち上げた。
首吊りの状態になり、気を失いかけた。
そして、二人を俺は地面に投げつけた。
勝負は一瞬だった。

由紀菜・藍佳・大悟はボーっとその状況を眺めていた。
勝負がついてからも、その時間はしばらく続いた。
俺も、わけがわからなかった。

                            つづく