童話 「鬼太と陽だまり」 | ちっぽけもんのブログ

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鬼太と陽だまり

今日はいい天気です。晴れ渡った空にポッカリ浮かんだ雲一つ。その雲にまたがった鬼太はおおきなあくびを一つしました。



鬼太は雷様一家の末っ子です。彼は雨をザーザー降らせたり、雷を落としたりする仕事を上手には出来ません。そんな落ちこぼれの鬼太に与えられた仕事は、陽だまりの仕事です。鬼太の兄達は陽だまりの仕事を馬鹿にしていましたが、鬼太はとっても気に入っていました。

陽だまりの仕事って、どんなものかって?



それでは、鬼太の仕事ぶりをながめてみましょう。

陽だまりは、子供の笑い声や歌声からできているのです。

楽しそうな笑い声は空にのぼり、お日様色のまぁるい玉に変ります。歌声も空の上で、夕焼け色のまぁるい玉に変ります。雲の上で鬼太は長い長い柄の箒でその玉をはき集めます。ホカホカと暖かい玉を大きな大きな袋に詰めるのです。袋が一杯になったら、鬼太は一つづつ玉を取り出します。そして、ポーンポーンと村里に落としてやるのです。鬼太は一つ一つ、それはそれは大切に落とすのです。



ちっこいのに水汲みのてつだいをしている平太の手元に一つ、カーチャンと一緒に洗濯物を洗っているアヤにひとつ、泣き止まぬ妹を負ぶって友達が遊ぶのを見ているハナの足元に一つ、あったかーい陽だまりを落としてやるのです。みんなゆるんだ顔で空を見上げます。つい鬼太もうれしくなって、大切に大切に、陽だまりを、落としてやるのです。

今日も鬼太は雲の上から村里を見下ろしていました。トントン山のふもとで、ひとりの女の子がないているのが目に入りました。いつも元気で、駆け回っているサヤです。鬼太はとても心配になりました。



一年も前の事です。鬼太は村の子供達と遊びたくて仕方がありませんでした。皆があそんでいるのを、木陰から何日も何日も見つめていました。そんなある日、サヤは鬼太に気付き仲間にいれてくれました。サヤは他の子と少し変った鬼太にやさしくしてくれました。



「鬼太はなぁ、走るンも、木ィ登るンも、すげぇんだぞ」

自分のことのように自慢し、かばってくれたのです。おかげで鬼太は村の子達と楽しく遊ぶ日々を過ごせました。でも、そんな楽しい日々は長くは続きませんでした。帽子だけの変装では、鬼の姿が隠せなくなってきたからです。鬼太はだまって、みんなの前から姿を消しました。

村里に降りることのなくなったその日から、鬼太は雲の上からサヤをみまもっています。そんなサヤが泣いているのです。鬼太の胸は、ズーンと重たくなりました。



鬼太はサヤの家の方に目を移しました。サヤの母さんがぐったりと寝込んでいます。サヤの母さんはサヤのお父さんが亡くなってから働きづめなのです。無理がたたったのです。

鬼太は兄のところへいきました。

「兄やん、オラ、陽だまりで、病気直す玉ッコ、つくってエエか? 」



「なに馬鹿こいとる。陽だまり玉サ100個つぶして固めねば、つくれねぇんだぞ。そんたらことしてみろ、オメェの手サ、おおやけどだ。しては、なんね!」



鬼太はだまって兄から離れ、陽だまり袋の所にいきました、玉を一つずつつぶしていきました。玉の熱さが手に染み込んできました。ヒリヒリとしてきました。10個目で、鬼太の手はビリビリとしてきました。20個めで、手は真っ赤にはれあがってきました。50個めで、もう手が痛くて痛くて玉を落としそうになりました。

でも、サヤの泣いている顔を思い出しました。80個めで、手の皮がむけてきました。でも、サヤをひとりぼっちにさせられません。100個めで、気絶しそうになりました。でも、サヤにこの玉を届けなければなりません。



ようやく鬼太は、もえたつような真っ赤な玉を作り上げ、玉を懐に入れました。

鬼太はサヤの背後に、降り立ちました。そして、そっとサヤに声をかけました。



「振り向くンでねぇぞ。おらは鬼太だ。サヤ、もう泣ぐな」

サヤの震えていて肩は、止まりました。



えっ、鬼太?なぜ今頃、鬼太なんだ?あんなに、あんなに、一生懸命さがしたのに。いなくなって、たくさんたくさん泣いたのに。なして今頃・・・・・・。

「ほんとに、鬼太け?なして、向いちゃあいけねぇんだ?」

「ぴっくりこくな。オラほんとは人間じゃねえ。鬼だ」



鬼太は息をいっぱいすいこんでつづけた。

「オラの姿みにくくておっかねえぞ。振り向かんでくれ。・・・・・・おら、サヤのおっかぁの病気、直してえだけだ」



鬼太は陽だまりの玉を、さやの膝の上に置いた。

「この玉サ、カーチャンの胸の上に置け。病気はよぉなる。嘘じゃねえ。早く行ってやれ! 」



サヤは、玉を大切に抱きしめ言った。

「鬼太は、嘘なんか言わねぇ。・・・・・・おれ、鬼太の顔が見てえ。おっかなくなんか、ねぇ」



鬼太は返事もせずに雲の上に帰りました。

振り向いたサヤの目には、いつもの裏山の景色だけでした。

玉のおかげでサヤの母さんは元気になりました。それは何よりもうれしいことでしたが、サヤの心には、寂しさが生まれていました。

会いたいのに会いたいのに、鬼太にあえないのです。お礼さえも言えないのです。せつなくてせつなくて、はっと気が付くと、サヤは鬼太の事ばかり考えていました。

ある日サヤは思いつきを実行する事にしました。



どんよりと曇った日のことです。サヤはトントン山のてっべんまで登りました。



「よし! 」

低く垂れ込めた雲は、トントン山の頂上にうまく乗っかかっていました。サヤは、雲の中に頭を突っ込んで、叫びました。



「鬼太、サヤだ! ずっと、ずっと、鬼太がすきだ! 友達だべ! 」



すぐに返事がありました。その声はとてつもなくデッカクて、とてつもなく嬉しい声でした。