6年前、家を買うために探していた時、色々な物件を見ました。私がこんな立場だったらこれ買う!と思った家がちらほら。妄想の世界です。
終の棲家
川西市下加茂×丁目 川西池田駅 徒歩13分/ -
890万円4DK 47.47㎡ 128.70㎡ 1961年06月(築48年)1階建
零時3分、最終電車の音がガタンガタンと耳の横を通り過ぎていく。線路から10メートルもない所に建った古い家に越してきて3ヶ月、百合子はこの音にまだなれないでいた。昼間はいいが、寝付いたばかりの時間帯は、初老の70歳にはきつかった。
5年間看病した夫が他界したのは一年前。葬儀を終えて気がついたら、貯金がそこをついていた。まだあと10年は自力で生活したかった。東京にいる息子も嫁いだばかりの娘にも心配はかけさせたくない、でも年金は心細すぎた。
そんな折、知り合いの不動産の店頭で見た張り紙に目が張り付いた。
「川西市下加茂×丁目 川西池田駅 徒歩13分/ - 890万円4DK 1階建」
現在住んでいるところを処分して、ここに移ったらいくらか手元に残るはずである。家は子供に残す必要はない。家なんぞは自分達の力でたてればいいのだ。百合子の年齢も考えずに起こした行動は早かった。
不動産屋がこの物件は「コレクションのようにのこっています。現在お住いの家が売れてから購入を考えればいいでしょう」といったのだ。ずっと売れ残った物件?大きな駅から平坦で13分、この安い家に一体何が隠されているというのだ。おばけがでるのか?もちろん下見にいった。
そこは住宅街とは名ばかりの線路際に密集した家々の中の一軒であった。古い付き合いを遺した平屋がたちならんでいた。「初老が住むには、すみやすいところかもしれない」直感的に百合子はそうおもった。その家には広告どおりの広いが荒れた庭もあり、相棒のタロも新居になれてくれそうな気がした。リフォームを待っている古家も旧知のような気がした。
引っ越してから、始めの直感はあてにならないことがわかった。電車は煩い、近所はわずらわしい、タロはなれずに煩く吼える、けちったフォームの床はぎしぎし言っている。チェッと舌打したい気分だ。
しかしここが終の棲家なのである。百合子は心に言い聞かせた。この年で新しい環境はきついのだろうが、力強いエネルギーもわいてきている。
「頑張れワタシ!」