エッセイ 「桜降る日」 | ちっぽけもんのブログ

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桜ふる日




 義母はポツポツ話してくれた。


ん、香りの思い出け。あるぞ。わし字も文も、よぅ書けんから、由紀さんが、かわりに書いてもええぞ。


 わしが高等小学校1年の時の事や。おなごの親が病気で死んでしもうたんや。悲しかったわなぁ。そんときの話や。


 わしの家は、おまはんも知っとるとおり、淡路島の瓦問屋や。てて親がまめに働いとったから、7人も兄弟がおったけど、困らん家やった

鼻の低いぶちゃいくな女6人と大事な息子1人の7人兄弟や。その大事な男の子が腸チフスになってのぉ、おかちゃんは付きっきりで看病したんや。兄やんは治ったけんど、自分が移ってしもうた。だいぶ悪かったんやろなぁ、けどそんなこと小学生のわしと妹にはよぉ分からんかった。


 そんころ、家の庭には大人一抱えくらいのおっきな桜の木があってのぉ、満開のころには通る人が皆「きれいぞなぁ、目がよろこんどるわ」言うてくれた。その桜がぱぁっと満開の日やった。


わしは妹と学校から帰ってきたら、家の中がバタバタしとる。てて親が「庭であそんどれ」いうもんやから、妹と桜の枝に飛びついて、ワッサワッサしとった。はなびらが、はらはらおちてきてのぉ、きれいな色とええ匂いも、落ちてくるんや。自分とこの木や、思たらちょっと誇らしぃてな、ええ気持ちやった。けんど、そんな気持ちはすぐ飛んでしもた。姉やんが、おかちゃんが死んだと伝えにきたんや。


わしら二人は木から降りて、ワーワー泣いた。泣いて泣いて、桜の色も匂いものうなってしもぅたわ。


 それから、一月くらいしてから桜の木は切り倒された。根付く寝つく云うてな、あかんのや。あれから70年もたったんやなぁ。けんど、わし、いまでも桜の香りにつつまれたら、おかちゃんのことや、悲しかったこと、おもいだすわ。悲しい事もなつかしいわ。

 こんだけの話じょ、ええかな?