幼馴染が逮捕された。もう随分昔の話である。罪状は控える。
刑務所から出た彼はその後、大工職人となり再就職した。
私の古い実家の廊下がミシミシと音がするようになったので、父が懇意の大工へ修繕を依頼したところ、やってきた職人がその幼馴染であった。
父は彼に前科があることを知らない。
帽子を目深に被り、最初は彼と気付かなかったが、なんとなく面影に見覚えがあって父は声をかけたという。
「もしかして…ええっとたしか娘と同じクラスだった…」
彼は帽子を脱ぎ、父を見て、このように言ったらしい。
「そうです、同級生です。きっと娘さんも、僕のことを覚えていると思います。」
小学生の頃の私は、いつもニコニコしている彼とずっと一緒に遊んでいた。
しかし彼の両親が離婚した頃から様子が変わった。幼馴染の目つきは鋭くなり、中学へ上がると私と関わることも無くなった。
その極端な変化が寂しく、恐ろしく、全く会話を交わさないのに、私は学校で常に、彼の気配を感じていた。
だからあれから30年近く経っても私は彼のことをよく覚えていたのだが、まさか彼も私を覚えているとは思わなかった。
そして、「私が彼を覚えている」と、彼が思っているとも思わなかった。
私がとっくに忘れていると、彼はなぜ思わなかったのだろう。不思議で、悲しい、父への一言であった。幼少期の私との記憶は、彼にとってどのような存在であったろう。

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