実弟を下げる彼


高齢な両親(父親60代母親40代で出産)の元に生まれ、父親と死別後は母親と一つ年下の弟と、親子三人で生きてきた彼。


付き合い当初、弟さんとよく電話や飲みに行ったりすると聞いた。
既婚者である弟さんだが、子どもを連れて彼の住む実家に遊びに来たりと、結婚後も変わらず兄弟間での交流があるようだった。


私も妹とは仲が良いので、兄弟仲の良い彼のことをとても微笑ましく、好印象に感じていた。


しかし、彼と交際し始めてしばらく経つと、私に弟さんの悪口や愚痴を頻繁に言うようになっていった。


「あいつは学生時代ヤンチャしててめちゃくちゃ悪かった」

「昔の彼女にこういう事をしてきた」

「奥さんに対してこういうことを言った」
(事実だとしたら、弟さんの神経を疑うレベルの酷いこと)

「あいつは子どもを育てる気がない」

「育児放棄してて奥さんが可哀想」

「既婚なのに、未だに女にモテたいと思っている」

「独身の俺がお金を持ってると思って、金を無心してくる」

「飲みに誘ってきたのはあいつなのに、お金を1円も払わなかった。奢らされた」


その当時、まだ弟さんとは面識がなかったので、正直弟さんに対して良いイメージを持てなかった。持てるはずがない。


彼とは11歳、弟さんとは10歳も年齢が離れているので、もし顔を合わせたりしたらなんて思われるんだろう。と不安だった。


しかし弟さんが仕事で悩んで鬱病になってしまった時、彼は


「あんなの仮病だ」


と言った。


心の病は、当事者にしか分からない。
他人がとやかく言えるレベルではない。

ましてや身内が苦しんでいるのにどうして理解してあげないんだろう。味方になってあげないんだろう。と彼の神経を疑った。
彼を諭してみたりもしたが、聞く耳を持たなかった。


弟さんは誰もが知っている大手企業の正社員だ。
そこに対しても劣等感があるようで、その企業の悪口もよく言っていた。


「あんな会社なんて、一見将来安泰だ!なんて思われるかもしれないけど、実は給料だって安いし、いつどうなるかなんて分からないし!」


↑私が弟さんの会社をすごいね。と褒めると、返ってくる彼の口癖だった。



日を追う毎に、弟さんの悪口から今度は奥さんの愚痴にまで話が広がっていった。


「奥さんは友達が少ない人」

「八つ当たりで物を壊す人」

「真面目で地味で全然面白くない人」

「奥さんは俺に対して冷たい。きっと弟が俺の悪口を吹き込んでいるからだ」



自己愛性人格障害の人は、他人を下げて自分を上げる特徴があるらしい。


これらの批判の後に続くのはいつも

「俺はこんなことはしない」

「俺だったらこうしている」

と、自分はこんな奴らとは違うんだ。と主張する。


弟さんは彼が今、理想とする全て手に入れている。


「結婚」
「永遠に裏切らない嫁という存在」
「子ども」
「安泰の職種」


彼の話によると幼少期は勉強のできる真面目な兄(彼)とヤンチャで問題ばかり起こす弟という関係だったそうだ。

彼がフラフラしている間に、いつの間にか定職に就き家庭を持った弟に対する劣等感と敵対視は、相当な物だったのだろう。


「あいつ、昔はヤンチャだったのに。」


負け惜しみにしか聞こえない彼の嘆きはとても虚しいものだった。